台風に名前を!!災禍の記憶忘れぬよう
— 伊豆大島報道で改めて思う —
伊豆大島で死者28人、いまだ行方のわからない方18人を出してしまった台風26号。そこにまた、台風27号の接近。連日、心痛む思いで報道しながら、私は、あのことをもう1度、このコラムに書こうと思い立った。「もう1度」というのは、じつはこのコラムがまだ大阪版だけに掲載されていて、東日本の読者の方の目にはふれていない2011年9月19日、私は、その大阪版に「災禍の記憶忘れぬよう台風に名前を」と書いたのだ。
その2週間ほど前に、台風12号に伴う未曾有の豪雨で紀伊半島や奈良県十津川村などで61人が亡くなる被害が出た。だが、何年か後、「2011年台風12号被害」とメディアが報じて、いったい何人の人が紀伊半島に惨禍をもたらせたあの台風だ、と即座に思い出すだろうか。だから台風に名前をつけようと提案したのだ。例えばこの台風を「紀伊半島土砂ダム台風」と名付けたら、新聞、テレビがさんざん報じた川がダム湖のようになったあの光景を思い浮かべてくれる人も多いはずだ。
このたびも26号台風の情報を番組でお伝えしながら、そのことを痛感した。「10年に1度、2004年台風22号並みの強さ」と言って、すぐにどんな台風だったか思い出す人がどれだけいるか。伊豆半島に上陸、関東地方を駆け抜け、横浜ではトラック38台がひっくり返ったあの台風。さしずめ「2004年伊豆、関東直撃台風」とでも名付けておけば記憶を呼び戻して、「あんな台風がまたくるのか」と用心してくれる人も多くなる。
その22号の直後にやってきた23号。四国から中国山脈を抜け、京都府舞鶴市では由良川が氾濫、水没した観光バスの屋根で、お年寄りたちが「上を向いて歩こう」を歌って一夜を耐えた。仮に「舞鶴バス水没台風」とでもしておけば、人々は「覚えてる」と言ってくれるのではないか。
ご年輩の方なら、「伊勢湾台風」「洞爺丸台風」といった名前のついた台風の記憶があるだろうが、気象庁は1977年を最後に台風に命名していない。アジア台風委員会が、「ナーリー」とか「ウィーパー」と名付けているといっても、誰も知らない。
このたびの台風26号を、たとえば「2013年伊豆大島台風」と名付けておけば、特別警報の出し方、接近時の町長などの対応、様々な教訓を後々まで伝えることができるのではないか。何より亡くなられた方、いまだ行方のわからない方たちの無念を長く心に残すことができる。
前回、このことを書いたときはラジオなどでかなり反響があったが、残念ながらお読みいただけなかった気象庁に、ぜひ一考をお願いしたい。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2013年10月22日掲載)
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