怒るより悲しい役人のデタラメ
— 天下り先に流し込まれる復興予算 —
同じ話で、何べんムカッとさせたら気がすむんだという一件がある。昨年10月、このコラムがまだ大阪版だけの掲載だったとき、「役人にとって人の不幸はカモの味」のタイトルで東日本大震災の復興予算のデタラメな使い途についての怒りを書いた。
刑務所の訓練機械の整備費。これは受刑者が出所後、ひょっとして被災地で働こうという気を起こすことがあるかもしれないから。岐阜のコンタクトレンズ会社の設備費。この会社が原料を東北から仕入れているから。国立競技場のトラック整備費。ここは、都の広域避難場所になっているから──。復興予算のこんな使われ方が明るみに出て、非難ごうごう。ときの民主党政権は「復興予算は今後、被災地以外には使わせない」と約束。安倍新政権も「使い途は厳しくチェックする」と表明した。
だけど、この国の役人たちは世論が沸騰しようと、政治家が確約しようと、そんなことで反省するほどヤワじゃない。先日の朝日新聞によると、金の使い途について国のチェックを受けず、官僚の天下り先として悪名髙き省庁所管の基金にせっせと復興予算を流し込んでいるという。
林業再生基金に1399億円。新卒者就職実現プロジェクト基金に235億円。リチウム電池の普及基金に210億円……。計20の基金に1兆2000億円が流し込まれている。
林業再生は被災地の住宅再建のためという名目だが、遥か遠く沖縄県石垣島の森林の間伐費も復興予算。ちなみに、この森林の木が材木として出荷できるようになるのは30年後だという。大分県では、この基金を使ってせっせと林道作り。昨年は全国一の204キロ、今年もがんばって242キロ作るとしている。ただし、大分の木材が東北3県に出荷された実績は、ほぼゼロだ。
それに被災地にしてみれば、自分たちのところに来るべきお金で、なんで全国の新卒者を支援しなければならないのか、首を傾げるばかりだろう。と、ここまで書いてきて、今週末も、また宮城県南三陸の取材に入る予定の私は、怒るというより悲しくなってきた。
おびただしい人々が最愛の家族をなくし、いまだ住む場所も定まらない。そんなとき、役人の中にただの一人でも「このお金、やっぱり被災地のために使おうよ」と言い出す人はいなかったのか。となれば、政治が大なたを振るうしかない。
安倍総理、「国際的に『侵略の定義』は定まっていない」なんて一知半解なことを言って国際的摩擦を引き起こしている暇があるんだったら、せめて国内的に「復興予算の定義」ぐらい、とっとと定めてみせたらどうなんだ。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2013年5月14日掲載)
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