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“毒味”を無視した住民投票こそ民主主義の否定
クライマックスに近づいた大阪都構想議論

吉富 有治
大阪
 いわゆる大阪都構想の行方がクライマックスに近づきつつある。今月9日と10日の2日、都構想の設計図である特別区設置協定書(以下「協定書」)の是非を問うための審議が大阪市議会の各専門委員会で開催された。橋下徹市長は大阪維新の会の市議の要請で財政総務委員会に出席し、しきりに「協定書の是非は住民投票で決めさせてほしい」などと訴え、議会での議論より有権者の判断に任せるほうが重要だと主張した。


 住民投票や選挙など、住民の利害に直結する重大な問題は住民自身が判断するという考え方は民主主義の理念に則ったものである。だが、これは同時に民主主義の大きな落とし穴でもある。かつてドイツ国民を戦争という地獄に引きずり込んだアドルフ・ヒトラーのように、政治家や扇動家による巧妙なプロパガンダによって冷静さを失った国民が選挙などの民主的な手続きによって誤った判断を下すことは十分にあり得るからだ。日本においてもほんの数年前、国民の熱烈な支持によって民主党政権が誕生したが、公約に掲げた景気回復や沖縄普天間基地の移転問題などは実現にほど遠く、誰もが落胆した苦い経験がある(それ以上に現在の安倍政権にはかなり危ないものは感じるが)。

 なにもかも有権者に最終判断を委ねしてしまうと場合によっては落とし穴にはまる危険性があるのなら、そのリスクを回避するシステムが常に民主主義には求められる。例えば議会もその1つだろう。なんでもかんでも行政トップや議会だけで決めるのは民意の無視だが、とは言え、有権者にすべての判断を任せることは衆愚政治への第一歩である。

 今回の協定書の例で言うと、議会というフィルターを通して中身を吟味し、その後に有権者に問えば、ある程度はリスクは防げる。この議会の役割を私は「毒味役」と名づけている。何が“毒”なのか、どれほど“強い毒”かは行政の現場に日ごろ精通している議員なら、ある程度は見抜けるからだ。“毒”が入っていなことを議会で確認できれば、そのとき初めて住民投票に付せばいい。これも民主主義の落とし穴を回避する1つの知恵だと思う。ところが議会の審議を軽視し、「毒味役はいらん。さっさと住民に食べさせろ」という主張こそ危険極まりない。腹痛を起こすのは食べた者の責任だと言っているにも等しい。つまりこれは民主主義を尊重しているようで、その実は有権者をバカにした思想であると言わざるをえない。

 一方、その協定書をめぐる大阪市議会での審議について、維新の会や一部の有識者から批判が沸き起こっている。「橋下市長との議論を避けている」という批判である。しかし、これはまったくの的外れ、議会審議のプロセスを理解していない頓珍漢な主張である。

 大阪都構想の根拠法である大都市地域特別区設置法によれば、「当該特別区設置協定書を速やかにそれぞれの議会に付議して、その承認を求めなければならない」(第6条)と記されている。つまり、都構想の設計図である協定書が議会に提出された段階で、議会は法の手続きに従いその是非を判断する。ちなみに承認なら、ここで初めて住民投票へと進む。

 さて各委員会の委員らは、協定書を承認するか不承認かを判断するため様々な疑問点を作成者に質さなければならない。作成者でなければ議員の疑問を説明ができないからだ。ここで勘違いしてはいけないのは、協定書の作成者とは橋下市長や維新の会の議員ではなく、府市大都市局の職員、つまり大阪府と大阪市の役人だということである。市長や維新の会は都構想の企画者であり、実際に協定書の細かい中身を作ったのは彼ら役人なのだ。

 ところで、一般的に議論というものは互いに意見を戦わすことである。大阪市議会における議論のプロセスを概念的に書くと、<議員⇔担当職員>となるはずである。しかしながら、各委員会では議員の質問に対して担当部局のお役人が一方的に答えるという形式をとっているため、その流れは<質問→答え→質問→(以下続く)>というスタイルになっている。「協定書の中身を判断するにしても、議会では真摯な議論がなされていない」「役人をいじめているだけ」などといった批判的な声がメディアを通じて聞かれるが、各委員会で協定書の可否を判断しようとするなら、審議のプロセスとしてはこれで間違いではない。むしろ真の作成者である役人の意見を聞かないことには中身の良し悪しは判断できないのだ。


 大阪都構想をめぐる本来の議論、つまり互いに異なる意見を戦わすという意味では、設計図作りの現場である大阪府・大阪市特別区設置協議会(法定協議会)こそがその「場」であった。しかし今年1月31日を最後に法定協議会から野党会派のメンバーは排除された。「都構想の入り口論ばかりに終始、反対ありきで議論にならない」という維新側からの理由からである。(この点の矛盾については「法定協議会からの反対派排除はルール違反」を参照していただきたい。)

 だが、大阪都構想こそ大阪を救う唯一の手段、という強い自負が維新の会にあるのなら、法定協議会の場で反対派の主張を徹底的に論破すべきであった。野党がなぜ反対するのか、どこに問題や欠陥があるのかという指摘を真摯に受け止め、協定書に反映すべきだった。けれど完成した協定書は野党会派を排除し、最終的にはオール維新が即席に認めたもの。議論を避けているのは、また大阪都構想を遠ざけているのは、むしろ維新の会の側ではないかと思う。
(2014年10月14日)


大阪都構想(Wikipedia)
 http://ja.wikipedia.org/wiki/大阪都構想
大阪都構想 法定協議会(YouTube)
 https://www.youtube.com/playlist?list=PLN1v6scvL94fQNZrmpMdCH_D_iXaVdh71
大阪都構想(Yahoo!ニュース検索)
 http://news.search.yahoo.co.jp/search?p=大阪都構想

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