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法定協議会からの反対派排除はルール違反
〜 自ら大阪都構想を頓挫させた維新の会

吉富 有治
大阪

 6月5日付けの読売新聞(大阪社会面)が「大阪都構想の法定協から反対派排除…維新強行へ」という記事を載せた。大阪都構想の制度設計をおこなう大阪府・大阪市特別区設置協議会、いわゆる法定協議会(法定協)で、都構想に反対する委員を強制的に排除する方針を大阪維新の会が決めたという内容である。法定協の浅田均会長(大阪維新の会政務調査会長)は“手続き”を進め、維新の会は反対派を排除したあとに法定協の主導権を握り、一気に都構想を進める構えなのだという。


 記事によると、法定協から反対派の委員を排除する根拠は「規約違反」なのだと記している。この規約違反を盾に自民、民主系、共産の反対派委員を法定協から排除するというのだが、この論理が正当か否かを考えてみたい。

 法定協の規約によれば、委員は「大阪府の議会の議長及び大阪府の議会が推薦した大阪府の議会の議員9人」「大阪市の議会の議長及び大阪市の議会が推薦した大阪市の議会の議員9人」をもって充てるとなっている(第5条の2、4)。以前、離党などで維新府議団の議席数が減ったことに伴い、府議会運営委員会(議運)で法定協委員の構成を変えた経緯がある(ただしその後、維新はみんなの党と統一会派を組んだことで法定協の議席数は元に戻った)。以上のことから、規約で言う「議会」は議会運営委員会とみなしても良いという理屈は、一応は成り立つ。ただ規約では委員の推薦はあっても罷免の条項はない。議運で維新の議席数を変えることができたのは、法定協委員の構成は各会派の議席数に応じて配分するという事前に決められたルールがあったからである。罷免の条項がないのに、どういう根拠から反対派を追い出すことが出来るのかという疑問が、まず最初に湧く。

 そこで維新が持ち出してきた根拠が「規約違反」である。だが、そもそも何をもって規約違反とするかは、肝心の規約の中にも書かれていない。関連していると思われる条項を抜き出すと、

 第3条 協議会は、次に掲げる事務を行う。
 (1) 大阪市の区域における特別区設置協定書(法第4条第1項に規定する特別区設置協定書をいう。次条において同じ。)を作成すること。
 (2) 前号に掲げるもののほか、大阪市の区域における特別区の設置(法第2条第3項に規定する特別区の設置をいう。次条において同じ。)に関し必要な協議を行うこと。
 第6条の6 会長及び委員は、協議会の目的に従い、誠実にその職務を行わなければならない。

 つまり規約の上では法定協の目的とは、①協定書を「作成すること」、②そのために必要な「協議を行うこと」であり、加えて「誠実にその職務を行わなければならない」と謳っており、維新側の主張によれば、以上の規約に反する行動はすべて「規約違反」というわけである。

 さて、まず根本的な疑問として「誠実」とは何かという問題がある。次に誰に対して誠実であるべきかを考えねばならない。誠実とは誠意をもって、真心をもって行動することだ。その対象は一義的には法定協議会に対してだが、本来は大阪府民、大阪市民に対して「誠実」であるべきである。大阪都構想が大阪府民、大阪市民の利益、幸福に叶うならば、誠実に協定書の作成に力を注ぐべきだろう。だが、法定協で協議を進めて行くたびに都構想の抜きがたい欠陥がはっきりした場合はどうすればいいのか。それらに目をつむって議論を進めることが、果たして「誠実」だと言えるのだろうか。「協定書を作成すること」と規約にあっても、このまま都構想を進めれば府民、市民に大きな負担をかけることが判明すれば、「協定書を作成しないこと」こそ誠実な態度になるのではないのか。


 法定協で大都市局が出してくる素案は、基本的には大雑把なものだから当然ながら穴もある。だが、その穴、不備を指摘するのは、いつも維新以外の会派なのはどうしたわけか。例えば、国民健康保険や介護保険、ごみ収集など100近い事務が特別区に分けられないため、これらの事務を特別区でつくる一部事務組合で一括して担うとするが、大阪都になれば、そこら中が事務組合だらけになってしまい、これではかえってコストが増えてしまう。

 大阪都の根幹となる財政シミュレーションがいい加減なことも維新以外の委員の指摘によって明らかになっている。そもそも大阪府と大阪市の借金計8兆数千億円のうち、7割は特別区が負担することになっている。しかも維新の会によると、特別区は中核市並の予算と権限を持つと宣伝している割には、確たる財源の裏付けはない。特別区はスタートから借金まみれ、金ナシの状態である。他にも一部の特別区では新たな区庁舎を作る必要があり、そのため余計なコストがかかることもわかっている。いまさら詳述しないが、大阪都構想の最大の目的である経済成長戦略にしても、都市設計と景気変動がリンクしないことは明らかである。

 以前にも書いたが(法定協での「反対ハンタイ」は本当か? 〜あばたもえくぼでは困る都構想議論)、このまま穴だらけの設計図を何ら検証なしに認めてしまえば、完成した大阪都は砂上の楼閣になりかねない。かつて社会問題になった耐震偽装のマンションと変わりはない。精密な検証抜きで都構想完成ありきの議論をどんどん進めてしまえば、府民、市民の利益は損なわれる可能性は大きい。それこそ不誠実な態度だと言わざるをえない。

 仮に明確な「規約違反」行為が委員に認められたとして、その委員を罷免することができる規約がないのは既に述べた通りである。ルールにないことを数の論理で押し切ることを、政治の世界では「独裁」と呼ぶ。もし、ルールを無視して法定協から反対派を排除した途端、その後の法定協は正当性を失うことになる。正当性のない法定協で作られた協定書にも当然、正当性はない。もし住民投票を強行すれば、投票に参加した有権者は脱法行為に加担させられたことになる。


 なお、今年3月23日投開票の大阪市長出直し選挙に橋下徹市長が再選したことをもって、法定協から反対派を排除する論理に正当性が与えられたと考える人は多いが、この理屈も成り立たない。何度も書いたように法定協の規約には罷免条項などないからだ。選挙に勝ったからルールにないことでもゴリ押しできるわけではない。極端な話、生活保護の全廃を公約に訴えた首長が当選してもその公約は果たせない。首長の一存で生活保護を全廃する根拠など法律にないからである。法定協から反対派を排除する公約も、そもそもルール違反なのだ。だから私は「あの出直し選挙は、そもそも選挙ではない」と訴えたのである。

(2014年6月10日)

取材


大阪都構想|大阪維新の会(日本維新の会 大阪府総支部)
 http://oneosaka.jp/tokoso/
大阪都構想(Yahoo!ニュース検索)
 http://news.search.yahoo.co.jp/search?p=大阪都構想
大阪市市政 大阪府・大阪市特別区設置協議会
 http://www.city.osaka.lg.jp/shisei_top/category/893-53-0-0-0.html

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