3冊読めば、何かが変わる。
「格差」のとらえ方が変わる3冊
Selected by 大谷 昭宏
『生きさせろ!』 ●雨宮処凛著(太田出版・1365円)
『恋せども、愛せども』 ●唯川恵著(新潮社・620円)
『おそ松くん』 ●赤塚不二夫著(小学館・1〜22巻 各630円)
『生きさせろ!』
雨宮処凛著
『恋せども、愛せども』
唯川恵著
『おそ松くん』
赤塚不二夫著
いま「格差社会」に疲れている若者が多いと聞きます。そんな人はぜひ、雨宮処凛の『生きさせろ!』を読んでほしい。この本は「肉食わせろ」「家賃をタダにしろ」などとデモをする貧乏人や、路上で鍋パーティーをやったりするワーキングプアの若者たちをルポしたものですが、そこにはある種の“楽しさ”が横溢しています。確固たる思想があるわけじゃないけど、楽しんでやっているんです。口先で不満を言うだけだったり、秋葉原で無差別に人を殺したりするより全然まし。楽しまないで前向きに生きることなんかできるわけがないんです。
意外かもしれませんが、女性作家の恋愛小説も示唆的です。特に唯川恵、川上弘美、村山由佳の3人の著作は秀逸。唯川恵の最新作『恋せども、愛せども』はエッセイ集だけど、しっかりした女性とだらしないオトコがたくさん登場する。川上弘美の『センセイの鞄』も年の離れた男女の細やかな心理描写が素晴らしい。村上由佳の『おいしいコーヒーのいれ方』シリーズは年上の女とはるかに年下のオトコが出てくる。共通しているのは「いろいろあったけど生きていこうよ」という人生に前向きな姿勢。躓いたり転んだりしても、頑張ろうというメッセージ。今の日本では男より女のほうがはるかに明るく楽しく生きているんです。先日、赤塚不二夫さんが亡くなりましたが、なぜあれほどまでに死を惜しむ声が強かったのか。それは『おそ松くん』『天才バカボン』を貫いている「これでいいのだ」という強烈な楽天主義のメッセージが、時代を超越して、なお色褪せていないからなんですね。
格差社会とかワーキングプアは制度がもたらしたものかもしれない。しかし制度が変わっても他者と自分を比較してしか生きられない人はウジウジと不満だらけの人生を送るでしょう。社会や制度も変えなければならないが、自分も変わる必要がある。他人がどうあれ自分が楽しければ「これでいいのだ」なんです。格差社会を生き抜く者を励ます底抜けに明るいメッセージなんですね。
(月刊CIRCUS 2008年10月号より)
雨宮処凛公式ホームページ
http://www3.tokai.or.jp/amamiya/
唯川恵(Wikipedia)
http://ja.wikipedia.org/wiki/唯川恵
赤塚不二夫公認サイト これでいいのだ!!