東京新聞・ハローペット
犬と暮らす人生 至上の幸せ実感
大谷昭宏さんとプル
大谷さんにとって「白いプードル」はもう三代目になる。
最初のプードルは、三十数年前、大谷さんが新聞の社会部記者をしていたころだった。
「夜回りをしていた車に、ぴょんと飛び乗ってきたんです。迷い犬だと思ったので、ずいぶん飼い主を探したんですが見つからず、うちで飼うことになりました」
これが初代プルちゃんだが、すでに若くはなく、がんも患らっていた。治療のかいなく、一年足らずで死んでしまった。
「まさに紳士のような犬で、亡くなった時はがっくりきました。その命日を、いまも銀行の暗証番号にしているんですよ」と、こっそり明かす。
その後、十五年ほど初代の墓参りをして過ごしていた大谷夫妻。次に選んだのは、やはり白いプードルだった。
「二代目プルちゃんは、十六歳まで生きてくれました。プルと暮らしたおかげでいろんなことを経験しましたね。たとえば住まい。当時、ペット禁止のマンションに住んでいたので、私が理事長になり、規約をペット可に変えたんです。当時はまだそういうマンションは珍しかったんですよ」
晩年のプルは心臓病、白内障などいろいろな病気をかかえたが、体の衰えにあらがうことなく、静かに老いていった。
「犬と暮らすと、短期間に生というものを見ることができる。プルを見ていて、ああ自分もあんなふうに老いを受け入れていけばいいんだと。手本を見せてくれたようでした」
プルは、大谷さんが中越地震の取材に出かけていたとき、旅立っていった。「死ぬときは家族三人一緒だよとあれほどいっていたのに。でも獣医さんは最期まで丁寧に診てくれたので、後悔はありません」
そして現在は三代目だ。姿は似ていても、性格は繊細な二代目と「まったく違う」、やんちゃ坊主だ。
「前のはサッカー遊びをするとき、キーパー役をしてくれた。でも今のプルは自分でボールをけっていってしまう。僕が週の半分東京にいる間、プルは妻と蜜月生活を送っています。僕が帰宅すると『おれんちに何しに来たんだ?』という顔で」
そんな犬でも、溺愛ぶりを隠さない大谷さん。夫妻には子どもがいないせいか、愛犬の前で、お互いをパパ、ママではなく、「お兄ちゃん、お姉ちゃん」と呼んでいるという。
「犬という動物に出会えただけで、私の人生は十分に意味があった。犬と暮らす幸せに比べたら、それ以外の仕事とか人間関係は、尾ひれみたいなもの。だから仕事も楽な気分でできますよ」
夫妻は将来、歴代の犬たちと一緒にお墓に入ることを決めている。
(東京新聞2008年3月19日付け夕刊より/文・宮晶子さん)
|