JavaScriptが使えません。 BACK(戻る)ボタンが使えない以外は特に支障ありません。 ブラウザの「戻る」ボタンをお使い下さい。
本文へジャンプ サイトマップ 検索 大谷昭宏事務所
ホーム 更新情報 フラッシュアップ Webコラム スクラップブック 活動

黒田清JCJ新人賞のコーナートップへ

黒田清JCJ新人賞 2010

黒田清JCJ新人賞 2009年トロフィー 黒田清JCJ新人賞
2010年トロフィー(伊達伸明氏作)

 東京・内幸町の日本プレスセンターで8月14日、日本ジャーナリスト会議(JCJ)の「JCJ賞」と「黒田清JCJ新人賞」の贈賞式が行われた。

 過去の受賞者8名のうち7名が女性という黒田清JCJ新人賞。9回目の新人賞も、札幌テレビ系列の制作会社に勤務する遊佐真己子さんが受賞した。遊佐さんは一児の母。受賞作は「アラームに囲まれた命〜NICU…医療と福祉のはざまで」(日本テレビ系列で2009年12月末に放映)というドキュメンタリー作品である。


贈賞式
贈賞式


 ベッド近くに置かれた測定器から鳴り響くアラーム音。「ピーピー」という警報は、呼吸器の異常を知らせているのだ。「新生児特定集中治療室」(略称NICU)で奮闘する医師や看護師、そして、超早産のため体重1000グラムにも満たない小さな新生児の姿。その口には呼吸用のチューブが入れられ、胸や腕には心拍数、体温などを測るセンサーが付けられている。この作品は、このような映像からスタートする。

 現在、1000グラム未満で生まれる新生児は20年前の1.5倍だという。しかし、高度な医療の発達で小さな命を救うことができる一方で、せっかく命が助かっても障害が残るケースがあり、NICUに入ったまま、何年も退院できない子どもたちも増え続けているのだ。そのため、ベッドは慢性的に不足。それが原因で、受け入れ先の病院が見つからず、自宅で早産した未熟児がたらい回しにされたあげく亡くなる事故まで起きた。NICUを退院しても設備の整った医療施設は少なく、常に満床状態。やむなく自宅で療養しても福祉のサポートには限界があり、介護する家族には心理的、経済的な負担が強いられる。映像はこのような現実を、これでもかと突きつけてくる。

 テレビカメラはNICUがフル稼働する大学病院や、重い障害を背負った子どもたちのケアを引き受ける福祉施設、また、5才になっても人工呼吸器が外せず、24時間365日、自宅で我が子の介護を続ける母親と幼い姉弟の姿を追っている。そこで語られる、それぞれの苦悩と葛藤。作品は医療と福祉の矛盾、そのはざまで翻弄される母と子どもたちの姿を描き、私たちに命とは何かを問いかけている。

 なお、遊佐さんの話では、取材チームはカメラマンや照明、音声の収録まで、すべて女性で行ったという。障害を持つ幼児とその母親への密着取材があったためだが、ここにも女性ディレクターらしい配慮がうかがえる。


黒田清JCJ新人賞を贈る

選考委員・大谷昭宏

 未熟児で生まれ、なお、その後も障害を抱える子どもたちは、社会的に最も弱い立場と言える。だが、NICUに入れるにも、そこを出たら生きて行けない子どもたちで常に満杯状態。在宅でこの子たちを養育するとなると、両親、とりわけ母親の負担は計り知れない。そこに焦点を当てたこの作品はこの世に生まれた命と私たちは、どう向き合うのか、鋭く、重く突きつけている。
 そんな重いテーマを女性らしい、そして何より母親らしい眼差しで遊佐さんはやわらかく描いている。これは選考委員会のあとの出来事だが、日本全国で200人以上の100歳を超えるお年寄りが行方不明になっていることが明らかになった。人生のスタートラインについた子どもの中でも、最も弱い立場にいる超未熟児。そして、いよいよ人生の終焉を迎えようとしている超高齢者。その二者に、これほどまでに冷たい仕打ちをする私たちの社会とは一体、どんな社会なのか。それを思うとき、遊佐さんに新人賞を贈ったことは一層、意義のあることになるのではないか。


大谷昭宏、五味宏さん(札幌テレビ・プロデューサー)、遊佐真己子さん、黒田脩さん
大谷昭宏、五味宏さん(札幌テレビ・プロデューサー)、遊佐真己子さん、黒田脩さん



 「黒田清新人賞」以外の2010年JCJ賞の各受賞作は次の通り(敬称略)。尚、本年は、JCJ大賞受賞作はなかった。

【JCJ賞】
受賞作:連載「呪縛の行方」を中心とする「普天間問題」のキャンペーン報道
(琉球新報)

受賞者:琉球新報「普天間問題」取材班

受賞作:連載「迷走『普天間』」を中心とする一連の報道(沖縄タイムス)
受賞者:沖縄タイムス「迷走『普天間』」取材班

受賞作:キャンペーン報道「笑顔のままで 認知症ー長寿社会」(信濃毎日新聞)
受賞者:信濃毎日新聞編集局

受賞作:『ルポ 資源大陸アフリカー暴力が結ぶ貧困と繁栄』(東洋経済新報社)
受賞者:白戸圭一



日本ジャーナリスト会議
http://www.jcj.gr.jp/

戻る 上へ