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黒田清JCJ新人賞 2006
黒田清JCJ新人賞 2006年トロフィー
黒田清JCJ新人賞 2006年トロフィー(伊達伸明氏作)

アメリカ弱者革命
 今年で5回目となるJCJ黒田清新人賞は、堤未果さん著作の『報道が教えてくれない/アメリカ弱者革命』(海鳴社刊)に決まった。

 数多くの応募作品のなかで、圧倒的な存在感を示したこの作品は、7人の選考委員によるJCJ賞の最終選考でも即座に全員一致で決定した、文句なしの力作だった。

 ニューヨークの世界金融センタービル20階の証券会社で働いていた堤さんの運命を変えたのは、01年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件。<あの朝、燃えているタワーの下をフェリー乗り場まで泣きながら逃げた>のだという。その後、<暴走するアメリカを横目で見ながら、この国が過去に繰り返してきた侵略の数々を知って、裏切られたような気持ちになった。憧れが憎しみに変わったと言っていい>と、心境の変化を綴っている。

 違った角度からアメリカを見つめてみると、世界の富の4分の1を占めながら、3100万人の国民が飢え、医療保険に加入していない国民が4500万人いる実態を知る。戦地に狩り出される若者の多くは、大学進学を夢見ても現状はままならない“下層階級”であえぐティーンたちだった。

 大学進学や将来の就職をエサに、軍のリクルーターが若者を勧誘する。正義と希望を与える大国・アメリカをとことん植えつけ、戦地に送り出されると、ある者は亡き骸となり、ある者はPTSDにさいなまれながら、何の援助も受けられずにホームレスへと身を落としていく…。

 堤さんはそんな若者たちや帰還兵、子どもをイラクで失った母親たちや家族、アメリカに疑問を抱くマイノリティーの人々など、精力的に取材を重ねてきた。

 たどりついた答えは、いつの時代も革命を起こしてきたのは弱者であり、アメリカという国もそんな弱者たちの声や意思によって変わっていくという思いだ。著書からはその思い、願い、祈りが滲み出ている。

贈賞式の様子
黒田清JCJ新人賞の贈賞式

 8月12日、東京・内幸町の日本プレスセンターで行われた贈賞式では大谷が賞状を渡し、黒田さんのすぐ上の兄、脩さんが造形作家・伊達伸明氏作の木製オブジェと賞金50万円を手渡した。受賞した堤さんは、「悲しみには国境はない、希望にも国境はない」と述べ、心を重ね合わせ、涙を流し続けた取材だったことを打ち明けた。そして、イラクに出兵させられ、帰還したものの、PTSDからなるアルコール依存症で苦しむ息子の母親からのメッセージを読み上げた。
 同じように困難な状況の中で問い続ける私の日本の兄弟たちへ──

 今日、このメッセージを日本の皆様方と分かち合えることをとても嬉しく思っています。本来ならばその場に私も駆けつけて、未果と、そして日本の皆様に心からおめでとうを言いたかったです。(中略)

 彼女(堤さん)と出会って以来、私はこんな風に思うようになりました。もし私たちが無知でい続けることをやめて、憎しみ殺しあうエネルギーを全て平和に向けたら、おそらくこの先何世代にも行き渡るだけに十分な愛と平和が世界中をおおいつくすだろうと。その日がくるまで、私たちは問い続けることをやめてはいけないのです。それは決して無駄ではないのです。

 私と同じように平和な未来を望む、親愛なる日本の兄弟たちへ。愛をこめて

受賞者関連サイト:http://mikatsutsumi.spaces.live.com/


会場にて
堤未果さん、黒田脩さん、大谷を囲んで



 なお、「黒田清新人賞」以外の2006年JCJ賞の各受賞作は次の通り(敬称略)。

【JCJ大賞】
受賞作:「『共謀罪キャンペーン』など、一連の『こちら特報部』報道」
受賞者:東京新聞特別報道部

【JCJ賞】
受賞作:「沖縄返還密約/元外務省高官証言スクープ」
 (北海道新聞06年2月8日付)

受賞者:北海道新聞記者・徃住嘉文

受賞作:「明仁さん、美智子さん、皇族やめませんか
 元宮内庁記者から愛をこめて」(大月書店)

受賞者:板垣恭介

受賞作:「シリーズ・言論は大丈夫か/第1回『ビラ配りと公安警察』、
 第2回『共謀罪とはなにか』」

受賞者:テレビ朝日・朝日放送「サンデープロジェクト」取材班

【JCJ特別賞】
受賞作:「ヒロシマ ナガサキ 私たちは忘れない」(CD9枚組)
受賞者:伊藤明彦

受賞作:「三池 終わらない炭鉱の物語」(ドキュメンタリー映画)
受賞者:熊谷博子

【JCJ市民メディア賞】
受賞作:「きのこ雲の下から、明日へ」(KTC中央出版)
受賞者:斉藤とも子


日本ジャーナリスト会議
http://www.jcj.gr.jp/

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