黒田清JCJ新人賞 2005
8月13日、東京・内幸町の日本プレスセンターで、日本ジャーナリスト会議(JCJ)の「JCJ賞」贈賞式が行われた。「JCJ賞」は、この一年間の優れたジャーナリズム活動・作品に贈るもので、この中には、2002年から亡き黒田清さんを偲んで「黒田清JCJ新人賞」が設けられている。4回目となる今年の新人賞は、ドキュメンタリー映画『にがい涙の大地から』の監督、取材、撮影、編集を一手に手がけた海南(かな)友子さん(34)が受賞した。
受賞作:
映画『にがい涙の大地から』
受賞者:海南友子
海南さんは大学卒業後、NHKでドキュメンタリー番組を制作していたが、30を過ぎると現場を離れてデスクになる組織に疑問を感じて00年に独立。学生時代から好きだったアジア各国に旅行しながら、カメラを片手に取材を続けてきた。受賞作『にがい涙…』は、NHKを辞めてから2作品目となる。
この作品のテーマは「遺棄兵器」だ。第二次世界大戦時、日本軍は旧満州(中国東北部)をはじめとしたアジア各地で、当時国際条約で禁止されていた毒ガスや細菌兵器を製造していた。しかし、敗戦を迎えると、連合軍に条約違反がバレるのを恐れ、隠すことを画策。現地・中国の地中深くに埋めて逃げ帰ってきたのだ。それが現在、建設現場などで地中を掘り返したりすると、漏れたり爆発したりして大きな被害を生み出している。日本政府が認めているだけで、遺棄兵器は70万発。中国側は200万発と推計している。
海南さんは03年、中国でリウ・ミンという27歳の女性と出会った。父親は彼女が19歳のとき、工事現場で日本軍の砲弾が爆発する事故に遭い、手足を吹き飛ばされ17日後に亡くなった。教師を夢見ていたリウだが一瞬にしてすべてを失い、莫大な借金の山を背負わされた。母親と弟とともに、親戚の家に身を寄せ、1日十数時間働き、借金の返済に追われている。
「楽しいことなんてありません。働くのが精一杯で、考える暇もないんです」
いつ、どんな話題であっても、彼女から笑顔が見られることはなかった。海南さんは、リウとの出会いをきっかけに、遺棄兵器の被害者たち60人を取材した。ある者は失明し、ある者は生殖機能を奪われていた。被害者自身の苦しみ、悲しみ、また、取り残された家族の痛み、怒りが、ナレーションもなく、字幕スーパーもほとんどない画面に滲み出てくる。ときにカメラは、ひたすら咳を繰り返し、痰を吐く姿を見つめ続ける。また、テレビもラジオもなく、BGMもないまま、ひたすら時を刻む時計の音だけが流れる。沈黙の中に描かれたどん底の貧困と落胆。テレビでは伝えきれない映像の力が、そこにはある。
受賞理由には「作者は被害者に寄り添い、その生活と心情を映像で克明に伝えながら、戦後世代の戦争責任のありようを追及している」とある。贈賞式では、大谷が賞状を渡し、黒田さんのすぐ上の兄、脩さんが造形作家・伊達伸明氏作の木製オブジェと賞金50万円を手渡した。満面の笑みで受け取った海南さん。「人身売買」などのテーマにも興味を示した今後に、さらなる期待を寄せたい。
受賞者関連サイト:
http://kanatomoko.jp.todoke.net/
なお、「黒田清新人賞」以外の2005年JCJ賞の各受賞作は次の通り(敬称略)。
【JCJ大賞】
受賞作:
『
Little Birds イラク戦火の家族たち
』
(ドキュメンタリー映画/製作・安岡フィルムズ)
『リトルバーズ 戦火のバグダッドから』(晶文社)
受賞者:綿井健陽
【JCJ賞】
受賞作:
『戦後60年キャンペーン 新たな視点・証言で探る沖縄戦』
受賞者:沖縄タイムス社・戦後60年取材班
受賞作:
『マーシャル諸島 核の世紀』上下巻(日本図書センター)
受賞者:豊崎博光
受賞作:
『沖縄/よみがえる戦場』(NHKスペシャル)
受賞者:受賞者:NHK沖縄放送局
【JCJ市民メディア賞】
受賞作:
ビデオ『辺野古の闘いの記録』(沖縄平和ネットワーク)
受賞者:大島和典
【JCJ特別賞】
受賞作:
『未来をひらく歴史 東アジア3国の近現代史』(高文研)
受賞者:日中韓3国共通歴史教材委員会
日本ジャーナリスト会議
http://www.jcj.gr.jp/