がっかり…組合がないのか
− 健全な労使関係こそ「裁量労働制」 −
ついに安倍政権が今国会での裁量労働制の拡大をあきらめた。当たり前だ。森友・加計問題での書類廃棄、証拠隠しも許せない話だが、こちらは労働時間をめぐるとんでもないデータの誤魔化し。過労自殺された方の胸かきむしられる遺書。過労死した方の遺族の慟哭の手記。そんな働く人たちの命をなお、すり減らそうとするこの政権の恐ろしさを見せつけられた思いがする。
その少し前、テレビのニュース番組で製造業、販売営業、設計デザイン、医療法人。いずれもトップクラスの方に集まっていただいて匿名座談会を企画させてもらった。まさに十人十色、それぞれが、それぞれの事情を抱えていた。
「人手不足の中、だれか辞めたら、補充できるまでの間、残業してもらうしかないのです」「長時間労働を少しでも減らそうとすると、残業代がそんなに減るんだったら、別の会社に行くと言う人もいます」「でも、そうやって残業してもらっていると、やはりそれを不満に思っている人もいるようで、わが社は昨年、労基署に入られました」
デザイン部門や今回裁量労働制の対象となった営業職、さらには医療現場でも事情はさまざまだ。
「いいアイデアが浮かばず苦悶する時間を労働時間にするかどうか、それは会社との話し合いでしょ」「緊急事態に備える当直と、夜間も普通に仕事をする夜勤がごっちゃにされてしまっているんです」
みなさんが本音を出せば出すほど事態は複雑、深刻だ。ただし、がっかりすることもあった。集まってもらったどの会社、法人にも労働組合がないのだ。そうなると、かつては「組合で問題にしよう」となったことも、従業員は会社にバレないように労基署に通報する。会社は会社で、だれかが労基署に連絡していると不信感を募らせる。
その結果、大忙しなのは労基署。いま職員の過労死が一番心配されているのは労基署、なんてブラックジョークが飛び交っている。果たしてこれが健全な労使関係といえるのか。
与野党がなすべきことは、雇用者側には健全な経営者であることを求める。そして労働側には、働く仲間に信頼される組合づくりを促す。そのうえで、あとは会社側の裁量と労働側の判断に任せる。それがあるべき裁量労働制ではないのか。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2018年3月6日掲載)
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