春は名のみ障害者支援
− 名古屋・県営住宅で父が長男殺害 −
発生が草津白根山の噴火の日だったこともあって、私もいつものニュース番組で短く取り上げただけ。だけどその後も心のどこかにひっかかっていた事件を、東海テレビの警察担当記者が掘り下げてくれた。
1月23日早朝、名古屋市北区の県営住宅で、50歳の父親が寝ていた25歳の長男の首をロープで絞めて殺害。父親は自分で110番、駆けつけた警察官に現行犯逮捕された。殺された長男は、知的障害があるうえに自閉症。父親は「息子の将来を思うと、不安だった」と自供している。
記者が役所や近隣、入所していた施設を取材すると、長男は障害者支援区分では最も重い区分6。特別支援学校卒業後、NPOが運営する施設に5年ほど世話なっていたが、音に敏感で暴れたり、他の入所者に暴力を振るうこともあって、ここ数年は自宅で両親が面倒をみていた。だけど隣の家のベランダに水をまくなど、近所に迷惑をかけることも多く、両親は必死に受け入れてくれる施設を探していた。この間、問い合わせた施設は50を超えたという。
やっと受け入れてくれた施設も2泊3日のショートステイ型。だが、施設探しが両親を苦しめることになったのには、もっと理由があった。国は2013年、それまでの障害者自立支援法を改めて障害者総合支援法として施行。ひと言でいうと、この法律によって障害者は施設から自宅へ。「住み慣れた地域で生活するために総合的な支援をする」ことになったのだ。
文言だけ読むと、健常者と障害者が共に生きていく地域社会、と聞こえはいいが、その結果どうなったか。たとえば愛知県では、それでなくても不足していた障害者施設の定員は1割減。この一家のように1度、長男を地域に戻してしまったら、次に入所できる施設はまずない。いったい、どこが「総合支援」なんだ。
絵や音楽が大好きだったという長男。列島が大雪に見舞われた早朝、父はどんな思いで1人息子の首にロープをかけたのだろうか。同じ日、2014年に神奈川県川崎市の老人ホームで入所者3人が投げ落とされて殺害された事件の初公判があった。そして先日は、11人が亡くなった札幌の生活困窮者共同住宅の火災─。
春は名のみの風の寒さが、ことさら身に染みる。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2018年2月6日掲載)
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