最後は仲間への「信頼」
− カヌー禁止薬物混入事件 −
私たちのような仕事のありがたいところは、テレビやラジオのスタジオで日ごろはあまり縁のないフィールドの方たちの話を聞かせてもらえることだ。学者や評論家はもちろん、棋士から関取、それにアスリート。
メーテレ(名古屋)の早朝番組、「ドデスカ!」ではバトミントン、「オグシオ」コンビの小椋久美子さんと放送作家の山田美保子さんがご一緒だ。先週の木曜日はカヌー日本選手権で鈴木康大選手(32)が同僚選手の飲み物に禁止薬物を投入、資格停止にさせた事件で当然、小椋さんがコメントを求められていた。
この事件について私は別のニュース番組で「日本選手は幸い、これまではドーピングと遠いところにいた。だけど、これからは仲間の選手といえども警戒心を持たなくては」といったコメントをしていた。だが、明るいトーンでさらりと話される小椋さんの言葉のなかに、さすが北京五輪日本代表、世界選手権メダリストらしい重さがあった。
もちろん日本選手も海外に行けば、外国人選手の動向を常に注意している。国内の大会でも小椋さんは、飲み物は自分が開栓したものしか飲まないし、どこかに置いておくことなんかあり得ない。だけどライバル選手に気をつけろと言われても、たとえば薬はチームドクターがチェックしたものを全員が使う。食事も一緒。「いったい何に気をつけてなのか」。それにライバルといっても、その選手も団体戦では仲間だ。
ではバスケや野球といったライバルのないチーム競技は心配ないのか。「そこにだってレギュラー、補欠をかけたすさまじい戦いがあるし、ポジション争いもあるんです」。要は「疑念」ではなく、仲間への「信頼」しかない。小椋さんの思いはそれに尽きるのだ。
言われるまでもなく、箱根駅伝4連覇の青学大。大学ラグビー9連覇の帝京。高校ラグビー大阪対決を制した東海大仰星。高校サッカー21回目の出場で栄冠を手にした前橋育英。逆転や、アディショナルタイムでの決勝点。ともに最後まで仲間を信じ合った結果の勝利だったのではないか。何より私たちがスポーツ応援し、声援を送るのは「疑念」ではなく、アスリート同士の「信頼」ではないのか。
強烈な寒波のなか、大相撲初場所も始まった。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2018年1月16日掲載)
|