「信」の文字が吹っ飛んだ17年
− 新幹線 無資格検査 改ざん…そして政治 −
年の瀬、名古屋駅新幹線14番ホームに、でんと止まったままだった「のぞみ34号」の車両を思い浮かべて、いまも私の胸に「信」という文字がよぎる。
超高速車両のまさに土台ともいうべき台車に側面14㌢、底面16㌢の亀裂。異音や異臭に気づきながら、1000人の客を乗せて3時間走行。新大阪駅でJR西日本からJR東海の乗務員に引き継ぐ際も、「異常なし」と伝達していた。名古屋駅で運転を打ち切らなかったら脱線の危険性が十分にあったという。
思い出すのは2005年4月、遅れを取り戻そうとした運転士が制限速度を46㌔もオーバーしてカーブに進入、死者107人(運転士1人含む)を出したJR福知山線の大惨事だ。安全よりダイヤ最優先。数分の遅れでも乗務員に懲罰を科していたこの会社の体質はそのままだったのだ。事故から10年余り言い続けた「信頼を取り戻す」は、まっ赤なうそなのか。
もう1点。新幹線が台車亀裂のまま走行を続け、東京までの間で脱線転覆、死者数百人を出す大惨事となったら、この社会はどうなるのか。私は、いっきにテロ説が飛び交い、日本中がパニックに陥るような気がしてならない。何しろ開業から53年間、走行に起因する死亡事故はゼロ。だれもが車両の根幹部分の台車が吹っ飛ぶ事故など想定さえしていない。たとえ異音異臭の情報があったとしても、何者かが台車に亀裂を生じさせた、爆弾を仕掛けた、とする情報がひとり歩きして、政府の否定説明など、だれも信用しない恐れは十分にある。
その根底にあるものはなにか。私は、2017年は信用、信頼の「信」という文字が吹っ飛んだ年ではないかとみている。日産に、スバルの自動車無資格検査。神戸製鋼、東レのデータ改ざん。日本企業が長年、世界で培ってきた信用も、信頼も地に落ちた。
いや、何よりも信頼も信用もすべて失ったのは、この国の政治ではないのか。国有地のゴミ水増しに、獣医学部の認可。政権の説明を信じている市民に私はこれまで出会ったことがない。
2018年、私たちがなすべきは「日本を、取り戻す」ではない、信用を、取り戻す。「この国を、守り抜く」ではない、信頼を、守り抜く、ではないのか。みなさま、よいお年を─。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2017年12月26日掲載)
|