強い義務はNHKにも
− 受信料制度「合憲」最高裁判決 −
先週は、私が籍を置くメディアについていろいろと考えさせられた。最高裁がNHKの受信料制度について「合憲」とし、さらにテレビ受像機設置者には支払う「義務」があるとしたのだ。NHKにとっては主張がほぼ全面的に認められ、満額回答に近い確定判決との見方が強い。
だが私は判決をじっくり読んで、これは最高裁が、判決の時期も慎重に検討を重ねたうえ、むしろNHKに強く義務を課した結果ではないかと思ったのだった。判決は制度を定めた放送法を合憲とする理由について、「憲法に定めた表現の自由と国民の知る権利を保障するため」とした。そのうえで、テレビ設置者が、みんなでNHKに受信料を支払うのは「特定の個人や国家機関の支配や影響を受けないため」としたのだ。
このことは視聴者からすると、NHKが「国民の知る権利」に応えようとせず、「特定の個人や国家の支配を受けている」と判断したら、受信料を払う義務はないということになる。
一方で最高裁は、なんで今の時期の判決なのか。思えば、この1月までNHKの会長は「政府が右というものを左というわけにはいかない」「従軍慰安婦制度はどこの国にもあった」と言い放ったあの方だった。それに監督官庁の総務省は、「放送内容によっては、国が局の電波を停める停波だってある」と言い張っていた、あの女性が大臣だった。そんなときに今回の最高裁判決が出ようものなら、いまとは正反対、8割の人が「あすから受信料払いません」となったのではないか。
折しも判決が載った朝刊の同じ紙面で元共同通信編集主幹、硬骨のジャーナリスト、原寿雄さんの訃報が伝えられた。享年92。共同通信のデスク時代、記事を書くその手で「小和田次郎」のペンネームのもと、ニュースに対する政治からの圧力、財界の介入を赤裸々につづった「デスク日記」を発刊し続け、関係者を震え上がらせた。学生時代、「絶対ダメ」を覚悟で学園祭の講演をお願いすると、「名前はどこに行っても小和田次郎。写真は撮るなよ。条件はそれだけだ」と言って、ひょうひょうとキャンパスを歩いておられた姿が忘れらない。
「忖度」が流行語大賞になった2017。メディアの「覚悟」が問われる年の瀬である。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2017年12月12日掲載)
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