壁に突き当たる裁判員裁判
− 高齢化社会 増える長期裁判… −
1週間前のことになるが、司法がこの問題を先送りすることがあってはならないと思っているので、ここでしっかり書いておきたい。
夫や交際相手の男性4人を青酸化合物で殺害、後妻業なんて言葉で語られた筧千佐子被告(70)の裁判員裁判で、京都地裁は死刑判決を言い渡した。「物的証拠がない」「被告は認知症で責任能力はない」としてきた弁護側は即日控訴した。
ここで問題にしたいのは、検察、弁護側双方の主張ではない。4人もの男性を殺害した連続殺人だったため6月26日に始まった公判は、じつに48回、135日間となった。もちろん、こんな長期間、裁判員をつとめられる市民は限られていて、地裁が選任した920人のうち出席したのは1割以下の86人。その中で半年近く被告と向き合うことになった裁判員のご苦労は察して余りあるが、これが果たして「広く市民感覚を反映させる」とする裁判員裁判の趣旨に沿ったものだろうか。
いま捜査が進む座間の9人殺害、死体遺棄事件。さらには1年たっても初公判のめどさえついていない相模原障害者施設19人殺害事件。いったいどのくらい長期にわたるのか、どんな人が裁判員を引き受けるのか。はっきり言って、裁判員裁判は壁に突き当たっている。
もう1点。筧被告は公判で迷走、「毒を飲ませた」と言った2日後には「ぼけてますねん」と証言。公判前の精神鑑定でも軽度の認知症と診断されていた。地裁は今回の裁判では「訴訟能力あり」としたが、鑑定医は「緩やかだが、進行している」としていて、この先、控訴・上告審の間に認知症が進行すれば、裁判そのものがなくなる公訴棄却も現実味を帯びてくる。
猛烈な勢いで進む高齢化社会。そうした中で2010年に殺人などの時効が廃止された。極端な話、この先、70、80歳のお年寄りが50年前の殺人を自供することだってないとは限らない。こうした高齢者は裁判が進行していくなかで、正常な判断を維持する訴訟能力を持ち続けることができるのだろうか。
想像もつかない連続、大量殺人事件と向き合わなければならない裁判員裁判。高齢化社会のなかで、増え続けるお年寄りによる犯罪。筧被告の事件は司法に待ったなしの課題難題を突きつけたのではないだろうか。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2017年11月14日掲載)
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