真夏のホテルに加湿器が運ばれたミステリー
− IT社会に寒けが走る −
週の前半は東京、半ばに名古屋に移動して、週の後半は大阪に帰るという仕事のサイクル。10年以上続いているので、すっかり体になじんでいるはずなのに、今年はいささか疲れ気味。どうやら原因は、東京の気候にあるようなのだ。
何しろ8月に入ってきのうまで、東京都心は21日間連続で雨を記録。これにともなって最高気温が夏日にもならない22度の日まであった。一方で週末に戻る大阪は連日35度以上の猛暑日。37度なんて日もある。
言うなれば、生身の体を冷蔵庫から出したり入れたり。そのせいで熱はないのだが、鼻風邪が治ったかと思えば、またぶり返す。じつはそんなときに、本当に熱が出てくるような経験をしてしまった。
週初めの夜、東京の定宿のホテルの部屋に入ると、なんと加湿器がデンと置かれているではないか。ジメジメ、ジトジトの雨続き。除湿器ならわかるけど、縦80、横50センチほどのでっかいカ、カ、加湿器ですよ。あわててボーイさんに撤去してもらったけど、フロントに降りていって、ゲスト係の女性に「カビでも生やさす気か」と言って大笑い。
だけど、いきさつを聞くうちに、なんだか笑えなくなってきた。企業秘密もあって詳しくは説明してくれないのだが、ホテルはすべてのお客さまをコンピューターに登録。チェックインのたびに客室係は、この客にはハンドタオルをプラス2枚とか、シャンプーは○製といったことを確認する。
私の場合、もう何年も前に気温がグンと下がって空気がカラカラになったころ、事務所のスタッフが加湿器の設置をお願いした。どうやらそれ以来、日中の最高気温が、たとえば20度に達しないと、自動的に「加湿器搬入」が画面に出る設定になっていたようなのだ。その文字を見た客室係は律義にも真夏に加湿器を引っ張り出してきた─。
だけど、とても1人では運べない大きさの加湿器。客室係に、いまこんなものを入れたらお客さまはベタベタになってしまうのに、といった会話はなかったのか。そんな客室係の仕事をチェックする人はいないのか。
ITが毛細血管のように張りめぐらされた、この社会で見てしまった夢ではない、真夏の夜の現実。異常気象のせいではない寒けが背中にスーッと走ったのでした。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2017年8月22日掲載)
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