お上に改革されたくない
− 記者の働き方は今も昔も… −
7月はテレビ局、新聞社の人事異動の季節。だけど、今年はどこの社会部長、報道局長からもため息ばかりが聞こえてくる。「あの社は夜討ち朝駆けを原則廃止するらしい」「うちは泊まり勤務を3人から2人態勢にするけど、大丈夫かな」。
電通女子社員の過労自殺以降、とりわけマスコミに対する労基署の目は厳しく、かなりの社が長時間労働や違法残業で是正勧告を受け、管理職だけでなく、現場の記者も大混乱しているという。
これほど厳しく夜討ち朝駆けにまで是正が求められると、何しろ公表したこと以外、取材でつかんだあれこれが報道されることを極端に嫌う現政権。「メディアの口封じじゃないの?」なんて声も聞こえてくる。
過労死や過労自殺があってはならないことは言うまでもない。だけど、ここまでくると私はなんだかなあ、という気がして、つい、わが事件記者卒業のころに思いをはせてしまう。
文字通り365日夜討ち朝駆け、事件があれば深夜早朝の呼び出しも当たり前。そんな過酷な大阪府警捜査一課担当を続けていた私もさすがに5年もたって事件取材を卒業。9時5時勤務の遊軍記者になった。ところがなんと、私はこの当たり前の生活ですっかり体調を崩してしまったのだ。
そのとき、当時の社会部長から電話があった。「しばらく好きなように暮らせ。心も体も大丈夫と自信が持てるまで絶対に出てくるな。いいな、部長命令だ」。
言われた私は小旅行に出かけたり、本を読んで暮らしていたのだが、数カ月がすぎて社会部長席にやってきた会社の労務担当は「大谷さんの有給は消化されました。あすから病欠扱いです」。その時の部長の形相は、後々の語り草になった。
「貴様、いつから社会部記者の仕事に口出しできるようになったんだ。えっ、よく聞け。大谷にはいま部長命令で、ある大事件の潜入取材をさせているんや。何が有給だ、何が病欠だ。2度と社会部に顏出すな」
もちろん潜入取材なんて影も形もない、まっ赤な大嘘。でもね、古き良き時代の出来事、いまどき、そんな勤務も休暇もあり得ない、なんて言うなかれ。
真実に迫ってやる。嘘八百を通らせてなるもんか。そんな記者の働き方は、いまも昔も、お上に改革されてなるものか、と思うのだ。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2017年7月18日掲載)
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