“首相の魂胆”国民にも自衛隊にも非礼
− 憲法施行から70年 「9条」そのままに「自衛隊」書き込む −
長い人は9連休にもなったゴールデンウイークが終わった。今年はあらためて憲法がクローズアップされた5月だったのではないか。
3日は憲法が施行されて70年。その崇高な理念を堅持してきたからこその70年の平和。だが、記念の日に安倍首相は「美しい日本の憲法をつくる国民の会」の集会にビデオメッセージを送った。この「国民の会」、あの森友学園の籠池前理事長がかつてメンバーだった日本会議が主導。首相も昭恵夫人もこのたびの件では、ほぞをかんだはずなのに、なぜかにこやかに「2020年を新しい憲法が施行される年に」とぶち上げた。
だけどアレレ、これまで目の敵にしてきた戦争放棄の9条はそのままにして新たに自衛隊の存在を明文で書き込むとしている。自民党の議員でさえ聞いたことがないと目を白黒させているこの発案。要するに、9条を放り出して自民党憲法草案の国防軍創設を言っていったのでは改憲の重い扉は開きそうもない。そこで国民の大多数が存在を認めるどころか感謝している自衛隊という、いわば国民合意の合鍵で扉をこじ開けてしまえという算段なのだ。この魂胆、国民にも自衛隊にも非礼ではないのか。
その5月3日は1987年、朝日新聞阪神支局襲撃事件で小尻知博記者(当時29)が銃弾に倒れた日。私が当時、出演していたラジオ番組。翌日の早朝、幼い娘と病院に駆けつけた夫人の声が流れた。「うそでしょ、起きて、起きてよ」という悲痛な叫びはいまも耳の奥に焼きついている。
声明文で犯行グループは、日本国内外にうごめく反日分子を処刑するべく結成した民族独立義勇軍赤報隊と名乗り、「特に朝日は悪質である。内外の反日分子を一掃せよ」としている。
ことしはその阪神支局襲撃事件から30年。あのころは特異な世界でしか聞かれなかった「反日」という言葉が、いまはネットで、ちまたで、大手を振って語られる。
2017年、憲法施行から70年。その憲法記念の日に言論が撃たれてから30年。そんな節目の年に安倍首相は、2020年、姿を変えた憲法を施行するとメッセージを発した。70、30、そして20と並んだ数字。
10年、20年、30年後、私たちのあとに続く人々は、果たしてどんな思いでこの数字を見ることだろうか。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2017年5月9日掲載)
|