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組織と国と罪と罰
− 消えない靄のような思い −
4月の終わり、「組織」ついて、いろいろ考えさせられた。25日は、死者107人、重軽傷者562人を出したJR福知山線事故から12年。事故現場となった尼崎市のホールで遺族たちが開いた「組織罰実現に向けて」の公開講演会で、ノンフィクション作家の柳田邦男さんとともに基調講演をさせていただいた。
日本の刑法が刑事責任を問うのは、あくまで個人。あれだけの大惨事であっても、JR西日本という企業や歴代社長が罪に問われることはなかった。会社という組織を刑務所に入れることはできないし、歴代社長があの日、運転士が制限速度を50キロもオーバーすることなど予測できるはずがないというのが、その理由だ。
だが遺族たちは、何万人もの命を預かる企業が安全対策や社員教育を怠った結果、事故を引き起こしたときは、その全資産を差し押さえるくらいの罰則を科すべきではないのかと訴える。とはいえ、いまのところ国にその声を聞く気配はない。
そして月末、私たちジャーナリストや作家が集まって共謀罪の趣旨が盛り込まれた組織犯罪処罰法改正案に反対する緊急アピールを行なった。田原総一朗さんや津田大介さんをはじめ、このたびは、あの「ゴーマニズム宣言」、保守派の論客、小林よしのりさんも「わしも反対派だ。仲間に入れてくれ」と飛んできてくれた。
国会審議でも参考人として意見陳述した小林さんは、かつて国が承認した非加熱製剤で500人もの死者を出した薬害エイズ事件の被害者団体代表をつとめた。その経験から共謀罪反対には、保守も革新も右も左もないとしたうえで、「普段は羊のように従順な市民でも、わが子が被害に遭って切羽詰まれば権力と戦わなければならない。そういう市民の組織を押しつぶしてしまうのが共謀罪だ。わしは物言う市民を守ることこそ民主主義ではないかと思っている」と、拳を突き出して熱く語っていた。
国家にお墨付きをもらった組織なら、何千何百の命を奪おうと罪に問われることはない。だが、そんな国家に命を奪われ、傷つけられた人々が声を上げようと、手をつなぎあって組織をつくったら、いつ罪に問われるかわからない。
春霞ではない。私の胸を覆う、靄のような思いは、消えそうもない。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2017年5月2日掲載)
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