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ささやき役人は憲政の汚点
− 審議入り共謀罪 −
「とうとうささやき女将が表に出てきたってか」。ニュース番組で、あまりお上品でないコメントをした。
危険極まりない法案、共謀罪が衆院法務委で審議入りした途端、安倍政権は、政府側答弁に役人である林真琴法務省刑事局長を立てるという奇手に出た。もちろん狙いは、意味不明なことを大声で叫ぶか、あとはしどろもどろ、野党の格好の標的にされている金田法務大臣外し。だけど馬脚を現したとは、このことだ。
「ささやき女将」は、ご記憶の方も多いと思う。10年ほど前、食品偽装が大問題になったとき、大阪の超高級料亭が客が食べ残した料理を別の客の席に出していたというとんでもない事態が発覚。社長と母親の女将が臨んだ記者会見で、頭が真っ白になった息子の横で女将が、それはああでしょ、そこはこう言いなさい、とささやいたのだが、テレビ各局のマイクは超高感度。その声がきれいに各家庭にまで流れてしまったのだ。以来、メディアが奉った名が、ささやき女将。
それと同じように、これまでの法務委の質疑でも金田法相が立ち往生するたびに後ろに控えた刈り上げ頭、巨大マスクの役人がヒソヒソブツブツ。だけど、こうした審議は「議員もわかっていない質疑をするな」という国民の批判を浴びて、もう何年も前から総理か大臣がきちんと答弁しようとなった。
なのにこのたびは、それに逆行するどころではない。「こんなややこしい法律、ボクらにはわからん」と言われ、総理や法相をはねのけてささやき役人が表舞台に飛び出してきたのだ。この事態は、法律の中身うんぬんの問題ではない。日本の憲政史上に大変な汚点を残すことになりはしないのか。
要するに総理も法相もこの法律が危ないものとはわかっていても、いつ、何をしたら共謀罪に問われるかはまったくわかっていない。役人だけが知っている。だったら国民は何をしたら、この法律にひっかかるのか、わかるはずがないではないか。なのに総理も法相も、共謀罪が一般市民に及ぶことはないと強弁する。
─「法務大臣、役人しか理解できないのに、なぜ共謀罪が市民が及ぶことがないと言い切れるのですか?」
─「えー、お答えします。役人に聞いてください」
…この国は早晩終わるような気さえしてくる。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2017年4月25日掲載)
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