なぜその職業を選んだのか
− 何かが違う就職活動 −
桜の花は散ったようだが、ターミナルには、一目でそれとわかる新入社の若者。それに、ことしから来年新卒予定の学生向け企業採用情報の公開が3月からになったので、リクルート姿の学生の姿も目につく。フレッシュさあふれる春である。
そんな折、○○砲とやらで、いまをときめく出版社の編集者が、私の記者時代の「恩師・尊敬していた先輩」というテーマでインタビューにこられた。だが、ひと区切りついてからの雑談は、脂の乗りきった編集者も、メディアの世界半世紀の私も、ため息まじりの若者談議になってしまった。
「そもそもこの世界に飛び込んでくるのに、しんどい事件取材は避けたいと言うのでは、なにをしにわが社に? と聞きたくなります」と言えば、「先日、某新聞の社会部にノー残業デーができたと聞いて、この業界は死んだと思ったね」と私。
そう言えば少し前、解禁になったばかりの会社説明会に参加した学生をテレビ番組で取材したところだった。企業の求人数が上向いたこともあって、今年は完全な売り手市場。学生の側も強気だ。「やっぱり『働き方を』大事にしたい」「時短がちゃんと実施されているかも知っておきたいです」「福利厚生面もしっかりチェックします」
もちろん過労自殺なんて言葉は2度と聞きたくない。だけど、何かが違う。番組の最後、私は「就職活動というのは、どの会社を選ぶかではなく、どの仕事に就くかを決めることではないでしょうか」と、つけ加えてしまった。
「記者時代の恩師・先輩」のインタビューを終えて外に出ると、ランチタイムでオフィスから出てきた若者の姿があった。そんなフレッシュマンに、私が敬愛してやまない記者、朝日新聞の三浦英之さんの著書、「南三陸日記」の一文、東日本大震災で津波にのみ込まれた女性を助けようとして、自らも命を落とした旧知の岩手県警幹部につづった言葉を送りたくなった。
<弱い女性や子どもを守る仕事を誇りに思い、警察官としていつも全力で管内を駆け回っていた。最期は女性を助けようと濁流にのまれた、と聞いた。
「どうして…」と霊前に言いかけて、彼の口癖を思い出した。
「悩んだら、なぜその職業を選んだのかを考えろ」>
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2017年4月18日掲載)
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