無期懲役判決に感じた「温かさ」
− 元名大女子学生事件の裁判 −
人が死ぬ様子を見たいというだけの動機で「どうしてなの」と、すがりつく女性(77)を手おので何回も殴りつけて殺害。また高校2年生のときには、中毒症状を観察したくて同級生2人に硫酸タリウムを飲ませ、1人は、ほぼ視力を失った。
こんな許しがたい犯行を重ねた名古屋大の元女子学生(21)に先週、名古屋地裁の裁判員裁判は無期懲役の判決を言い渡した。事件当時、未成年だった女子大生に検察の求刑通りの判決。だが厳しさの中に、人の肌にふれたような温かさを感じた判決と言ったら、いささか語弊があるだろうか。
判決公判で山田耕司裁判長は、刑の言い渡しを後回しにすると宣言。こうした例は死刑判決のときに多いことから傍聴席にも一瞬、緊張が走ったという。だが裁判長は「どうしてこういう判決になるのか、しっかり聞いてください」と異例の言葉をつけ加えて、静かに判決理由の朗読に入った。そして検察側求刑通りの厳刑。だが最後の説諭が、また異例の展開となった。
判決の際の説諭というと、「被害者の冥福を祈り続けてほしい」とか「反省の日々をすごすように」と、情感に訴えるものがほとんどだが、この日の山田裁判長は違った。まず「検察が求めた死刑に近い無期ではなく、有期刑に近い無期」と量刑の意味合いに言及。さらに驚いたことに、本来、司法ではなく行政の領域である刑事施設での処遇についてもふれ、「しかるべき治療も受けられ、また仮釈放も柔軟に考えてほしいという意見もつけました」とまで踏み込んだのだ。
ことここに至ってはっきりしてきた。これは裁判長の説諭というより、2カ月以上にわたって、この残虐な犯行と、心に闇を抱える元女子大生と向き合ってきた裁判員の思いも乗せたメッセージだったのだ。
「刑務所で被害者に思いを巡らせ、罪を償ってください。あなたには知的能力の高さがあります。希望を持って、知恵を絞って努力すれば、障害を克服できるはずです。あなたの更生がきっと償いになります」
だが、無期懲役囚を仮釈放させるハードルは極めて高い。何より精神、人格障害に医療措置ができる女子刑務所は、ないに等しい。裁判員に代わって事件と向き合うのは、これからは私たち1人1人ではないのか。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2017年3月28日掲載)
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