国有地買いたたき右派にどう映る?
− 故小寺一矢さんを悼む −
「思想信条は180度違うのに、小寺先生に声をかけられると、なぜか二つ返事で来てしまうんですわ」「また、そんなことを言って。目指すところは一緒といつも言ってるやないの」
毎度おなじみのこのやりとりに、講演会やシンポジウムの会場は笑いに包まれる。その小寺先生、元大阪弁護士会会長の小寺一矢さんが亡くなった。享年75。
テレビ番組でご一緒したのが縁で弁護士会館や中之島公会堂、さまざまな場面に招かれた。そこで定番のあのやりとり。何しろ大阪弁護士会の会長になったときは「弁護士会館に日の丸が立つ」とまで言われたバリバリの右派。
だけど幼稚園児に教育勅語を暗唱させ、運動会で時の首相に「ガンバレ!」と幼い声を張り上げさせる。自身は他国の人や弱い立場の人に心ない言葉を浴びせて、その裏で時の権力者にスリ寄っては国有財産を買いたたく。そんな“右”を知ったら激怒されたはずだ。
憲法問題に安全保障、とりわけ戦後の教育。グラスを傾けながら、互いの思いを心ゆくまでぶつけ合い、互いの言葉に耳を傾けた。「ほーら、やっぱりね。今夜も、ぐるっと回ってお互いの思いも、目指すところもおんなじやってわかったじゃないの」。日付が変わるころ、紫煙の向こうの顏は、いつもほほ笑んでいた。
忘れられない光景がある。朝の出演番組が終わったテレビ局の喫茶室。小寺さんの足元にひと抱えもある紙袋がふたつ置かれている。持ち出しになることが多く、若手弁護士でさえ引き受けたがらない国選弁護の事件に小寺さんは年に数件、手を挙げることに決めていた。弁護士会会長までされた小寺さんがこのとき受任したのは若い男の窃盗、ドロボーの事件だった。
「ところが、このアンチャン、財布が空っぽのときに捕まったもんやから、着の身着のままの着たきりすずめ。親兄弟にも見放されていて、ティッシュ1枚買われへんのや。ほっとくわけにもいかんしなあ」
紙袋には、まっ白な下着にパジャマ。もうひとつの袋からはポテトチップスや漫画雑誌がはみ出している。両手にその紙袋を抱え、拘置所に向かってテレビ局の玄関を出て行く小寺さんの、あのときの後ろ姿が、なぜか、旅立たれていく小寺さんの背中に重なって見えてくるのである。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2017年3月21日掲載)
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