不正捜査で国民丸裸に
− 近く閣議決定「テロ等準備罪」 −
先週のこのコラムに「人の心まで縛るやっかいな法律」と書いた共謀罪の要件を盛り込んだテロ等準備罪について、安倍政権は近く閣議決定するという。この法案の審議、およそ法律にはトンチンカンな金田勝年法相を相手に法学部のゼミのような議論が続いているけど、私たち事件捜査を間近に見てきた者からすると、なんだか法律ごっこにはまっているように思える。問題は、どんな手続きを経て、どんな捜査をするかということではないのか。
法案によると、組織的犯罪集団がテロ等を実行するための犯罪を計画、そのための合意、または準備をした段階で摘発するとしている。さて問題は、何をもってそのグループを組織的犯罪集団とみなすかだ。
暴力団対策法でも組織人員のうち何人に犯罪歴があるかといった一定の規定があるのに、この法案にはまったくない。あのサークルは「共産党宣言」の輪読会をやっている。コーランを読む声が聞こえた─。何を組織的犯罪集団とみなすか、捜査機関のサジ加減ひとつなのだ。
ついで、その組織をどうやって捜査するのか。仲間を装って一緒に本を読んだり、コーランを唱えるのも1つの方法だが、スパイと見破られてしまう危険がある。まず考えられる捜査手法としては、集会に監視カメラを仕掛けたり、電話を盗聴する。車にひそかにGPSをつけ、常時行動を監視する。さらには組織のパソコンに侵入してメンバーの特定や行動計画を把握する。
テロ等準備罪で摘発するには、これらの捜査が必要不可欠だ。だが、マイクやカメラを仕掛けるには住居侵入しなくてはならないだろうし、パソコンへの侵入は電磁的不正アクセス防止法に違反する。つまりテロ等準備罪という犯罪の捜査では、捜査機関は犯罪行為をせざるを得ないのだ。
かくして国民は不正捜査によって丸裸にされる。なぜ、そのことをもっと指摘しないのか。それにしても、防ぎようのないこの事態。にらまれないためにはどうしたらいいのか。
権力者が来たら斜め上を向いて狂ったように拍手する。盗聴されているとわかったら、みんなで教育勅語を唱和しよう。組織の名誉総裁を権力者の夫人にしておくのもいい方法だ―。
限りなく、いま世界中を騒がせている、あの国に近づいてくるではないか。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2017年2月28日掲載)
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