万引に頭を悩ませている人のために
− 社会できちんとしたルール作りを −
何年かに1度は同じようなニュースを伝え、そのたびに「社会できちんとしたルール作りをしよう」とコメントしていることがある。2月初め、東京・御徒町の眼鏡店で21万円相当の眼鏡フレームが万引され、怒り心頭の社長が防犯カメラに映った男の画像をモザイク処理して店のホームページにアップ。3月1日までに名乗り出なければ、モザイクを外すと警告した。
1週間ほどで警視庁が23歳の男を逮捕。モザイクが外されることにはならなかったが、そう言えば2年ほど前には、高価なブリキ製のフィギュアを万引された古物店がやはり「返しに来なければ、モザイクを外す」と警告して画像をアップ。こうしたニュースが流れるたびに「やり過ぎだ。名誉棄損にあたる」「いや、店の気持ちはわかる」などと、ひとしきり論議を呼ぶ。
はっきり言って世間で万引という犯罪が話題になるのは、こんなときくらいだ。だけど薄利の書店で3000円の本を1冊万引されたら、50冊分売った利益が飛ぶと聞くと、店の悔しさもわかる。防衛する権利はあるはずだ。いつまでも、犯罪の捜査、摘発は警察に任せるべきだという建前論ばかりでいいのか。
ひるがえって学校近辺に変質者が出没する。周辺の防犯カメラに映った不審者の画像を通学路や駅に貼り出す。もちろん人違いの危険性はあるし、顏を出してはまずい未成年かもしれない。だけど、この場合は、女子生徒や子どもたちの安全が優先されるのではないか。「やり過ぎだ」という声が上がるだろうか。
通り魔殺人や路上強盗、こうした凶悪犯罪は、警察からの協力要請でテレビ、新聞が動画や画像を報じることはよくある。だけど万引が取り上げられることはまずない。だったら、スーパーや小売店が、防犯カメラの画像を警察に分析してもらって、ほぼ犯人に間違いないとされた段階でホームページでのアップと店内に限った掲示は認められる。そんな基準を作ってもいいのではないか。
人々の心まで縛ってしまうやっかいな法律を、やっかいな大臣の前で毎日議論するより、市井の人々が日々頭を悩ませている、そういうことに、みんなが納得できるルールを作っていく。そっちの方が為政者の大事な仕事ではないのか。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2017年2月21日掲載)
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