初乗り410円のからくりとは
− タクシーとアベノミクス −
<ある朝目覚めると、ボクは巨大な虫になっていた>はカフカの小説「変身」の書き出しだが、さしずめ<ある朝目覚めると、タクシーが410円になっていた>というところか。1月30日、東京でホテルからタクシーに乗ると初乗り2キロまで730円が1.052キロまで410円になっていた。お年寄りや買物の主婦に「チョイ乗り」してもらって、客離れに歯止めをかけようというのが業界の狙いだという。
だけど本当に客が増えたり、水揚げのアップにつながったのか。虫にはならなかったけど、うたぐり深いボクはそれから半月、タクシーに乗るたび、20人以上の運転手さんに聞いてみたが、評判はすこぶる悪い。チョイ乗り410円の客は10乗務で多い人で7人、少ない人はなんと2人。730円のときでも「近くてゴメン」と言っていたのに、410円となると、みなさんもっと遠慮して乗ってくれない。狙いは見事に外れたのだ。
それでいて296メートルごと90円が237メートルごと80円になって客層の多い6.5キロ以上は実質値上げ。「高速道路ではメーターがカチャカチャ鳴りっぱなしでお客さんが気の毒になってきますわ」。結果、長距離客は減って、水揚げダウンは必至だという。
なんで東京は、だれも喜ばないこんなタクシー初乗りにしたのか。答えは簡単。15年前、遅々として進まなかった小泉規制改革の目玉に新規参入と増車を押しつけられたタクシー業界が、今度はまたぞろ虫の息になっているアベノミクスの一時しのぎに使われたのだ。
何しろアベノミクスの景気回復のためにはデフレ脱却、物価上昇2%が必須だが、あら悲しや、上昇どころか実質マイナス0.3%。ならばここでタクシー業界に410円ポッキリの大安値で、まず客を取り込んでもらって、その実、大幅値上げ。増収増益で景気回復に手を貸してもらおうというわけだ。ズルイなあ。
もうひとつ。物知りの運転手さんが教えてくれたのだが、そんな中、来年2018年秋には消費税が10%に。これは安倍政権の約束事だ。そのとき410円の初乗りが、たとえ430円になったとしても「高い」とは思われない。セコイなあ。
なんだかこの初乗り。乗り込んだ客は便乗組と悪乗り組ばかり、という気がしてくるのではないか。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2017年2月14日掲載)
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