間違いを指摘する人間が「でんでん」いない
− 思い込みが漢字だけならいいけど −
毎日新聞夕刊2面のコラム(大阪本社版を除く)が楽しい。中でも水曜日、与良正男さんの「熱血!与良政談」には「納得!」と叫ぶことが多い。とりわけ先週の「『でんでん』問題について」は小気味よかった。
安倍首相が施政方針演説で野党をあてこすって「国会でプラカードを掲げても何も生まれない」と発言。怒った民進党から抗議されて「訂正でんでんとの指摘は当たらない」と国会答弁。聞いていたみんなは??? 要は安倍さん、「訂正云々」を「でんでん」と読んでしまったのだ。
だけどこの一件、ネット上では「うわっ、安倍さんって漢字が読めないんだ」と大騒ぎになったのに、たいがいのメディアが無視。新聞には読者から「麻生元首相の読み間違いにくらべてほとんど報じないのはなぜか」という疑問が寄せられた。その声に与良さんは<「だからマスコミは(安倍)政権に萎縮している」と見られがちなことを思い知った>として、あえて自身のコラムで取り上げたのだ。
言われてみれば麻生・現財務相兼副総理の誤読はひどかった。「踏襲」(ふしゅう)、「未曾有」(みぞうゆう)、「頻繁」(はんざつ」、「低迷」(ていまい)…きりがないのでこのへんでやめるけど、それにくらべて安倍さんの間違いは小さい。だからメディアは取り上げなくてもいい、という話ではなかろう。
与良さんは、自分もそうだと書いていたし、私にいたっては、この日刊スポーツの編集者や事務所のスタッフから指摘されて、その場で死にたくなるような誤字誤読は年中だ。ただ私たちには、こちらがどれだけ傷つこうと、ここぞとばかりに間違いを指摘してくる“嫌なヤツ”が山ほどいる。
今回の一件の最大の問題は、そこにあるのではないか。安倍さんも麻生さんも、それまで「云々」も「踏襲」も1度も使ったことがなかったわけではあるまい。ただまわりの人は間違いを指摘して機嫌を損ねても、と黙っていただけなのだ。その間違った思い込みが漢字の読み方だけならまだいい。安保法制に続いて共謀罪。与良さんは「不都合なことに目を向けない首相を問い続ける」と書いている。
いいね、与良さん、これからも安倍政権云々(でんでん)、続けましょうね―私もたいがい嫌なヤツだなあ。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2017年2月7日掲載)
|