「学の独立」削除求める早大生はいないのか
− 文科省ぐるみ天下り嘆く −
読むたびに怒りと同時に情けなさが込み上げてくる。そんな資料が手元にある。A4判4枚。〈取扱注意 「吉田氏」(想定)〉とか〈「早稲田大学」(想定)〉などと書かれている。
吉田大輔元文科省高等教育局長が国家公務員法に違反して早大に天下った件で、内閣府の再就職監視委員会が昨年8月、この事実を察知。それを知った文科省が大あわてで吉田氏や早大、それに仲介者の文科省OB用に作成した口裏合わせの想定問答集だ。それにしても、いやしくも教育に関わる者がよくもまあ、と仰天するばかりの内容なのだ。
OBが在職中から吉田氏に接触。私大補助金の交付先である早大に強引に押し込んだのだが、それが想定問答集によると─
吉田氏「文科省を退職後、省の先輩から早稲田が高等教育行政に詳しい人材を求めていると連絡があったので、挑戦したい旨即答。翌日、副総長と面談した」
早大「大学の人事戦略上、高等教育行政に詳しい人材を求めていたところ、仲介者から吉田氏が退職すると電話があり、『是非』と回答。その後、吉田氏の感触もいいとの連絡があったので翌日、副総長と面談することになった」─
文科省が「カラスは白いと言えば、カラスは白」と言わんばかりの問答集。だけど何にも増して情けないのは、早稲田ではないのか。もちろん、そこに学んだ多くの人はあの大学から何かを授かったなんて思ってはいない。だけど建学以来、共に仰いできた同じき思い。権力にくみしない学問の独立、そして在野の精神…。
人生の節目節目、何かあったときにこそ、それを思い起こし、自らが生きるバックボーンとしてきた卒業生は数限りなくいるはずだ。
なのに権力にすり寄るどころか、天から下りてくる権力を仰ぎ見て、そのしもべと成り下がる。在野の人々に後ろ足で砂をかけておいて恥とも思わない。そんな大学にOBたちのこんな思いが通じるはずもない。
だけど、この事態に学生たちは何をしているのだ。抗議のデモが起きたとは聞いていない。授業、期末試験ボイコットの動きもないという。時代が違うというのか。いいや、そんなことはない。たったひとりでいい。キャンパスで、せめて校歌から「学の独立」を削除しろ、と訴える学生はいないのか。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2017年1月31日掲載)
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