弱者襲う事件 理不尽に声上げぬ社会
− 島根県立大生殺害事件 −
旅から旅の生活では当然、ひげそりやブラシを入れた小物入れを持ち歩く。先日までは島根県浜田市のショッピングセンターで買ったバッグを愛用していた。そこには島根県立大生の平岡都さん(当時19)が7年前の10月、殺害される直前までアルバイトをしていたアイスクリーム店が入っている。
事件からしばらくたって遺体が放置された臥龍山やショッピングセンターを取材。こんな凄惨な事件を心に刻み続けておきたいと買い求めたのだ。だけど事件は未解決のまま7年がたち、小物入れもだいぶ傷んできた。都さんの笑顔の写真を思い起こしながら、たまたま見つけた手ごろなバッグにバトンタッチ。だが、なんとその日の深夜、「殺害犯の男、事件直後に交通事故死。書類送検へ」のニュース速報が流れたのだ。
縁起とか、げん担ぎにはまったく興味がないが、この夜だけは、都さん、高松のご両親、毎年追悼の集いを開いていた県立大生、それぞれの方の無念とむなしさが伝わってくるようで目がさえてしまった。犯人がわかったといってもすでに死亡。裁判でなぜ都さんだったのか、なぜあんなむごいことをしたのか、何ひとつ明らかすることができない。
遺体発見2日後の事故死だったので容疑者逮捕は、ほぼ不可能だったとはいえ、現場近くを走行していた車の映像と実刑を受けていた性犯罪歴、点と点を結びつけていれば、はるかに早く事件は決着したはずだ。この7年間、人々を覆った不合理、不条理、理不尽…。
間もなく2016年が暮れようとしている。今年もさまざまな事件、事故、災害を報道してきた。知的障害者施設の19人殺害。病院での高齢者殺害事件。今年は力の弱い人たちに襲いかかった事件が多かった気がしてならない。なかでも沖縄で5月、米軍属が20歳の女性を強姦して惨殺。怒りをぶつけた県民抗議集会には私も足を運んだ。その沖縄では、先日のオスプレイ墜落事故で米軍の最高司令官が「住民の上に落とさなかったことに感謝しろ」と暴言を吐いたが、安倍政権は抗議の声すら上げていない。
みんながそうした不合理、不条理、理不尽に立ち向かい、声をあげることで少しでも平和で安全な社会に向かえるはずなのに―。そんな思いを来る年につないで、みなさまどうぞよいお年を。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2016年12月27日掲載)
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