保護観察つき判決にしておくべきだった
− ASKA容疑者の「劇場型逮捕」 −
長い間、事件を報道してきて、こんなニュースの伝え方をしたのは、もちろん初めてだ。あれから1週間以上になるが、夕方のニュース番組に向けて最初の打ち合わせをしていた午後2時半すぎ、覚醒剤事件で執行猶予中のASKA容疑者(58)がまた同じ容疑で逮捕されるという一報が飛び込んできた。
テレビ各局は一斉に「逮捕へ」の速報テロップ。逮捕もされていないどころか令状請求もされていない段階で、世間はもちろん本人にも「逮捕されますよ」と伝わるなんて、見たことも聞いたこともない。案の定、容疑者のブログに「はいはい、みなさん。落ち着いて。マスコミのフライングです」と人を食ったような書き込みがあったどころか、なんと本人が他局の生番組で電話インタビューに答えて、「(前回の事件以来)覚醒剤は見たこともない」。
自宅前のカメラの押し合いへし合いのあと、逮捕されたのは一報からじつに7時間後。劇場型犯罪は随分報道してきたけど、これは劇場型逮捕ではないのか。
ただ自分たちで報道しておいて言うのもおこがましいが、こうした騒ぎの中で、私たちの社会から犯罪を直視し、犯罪を許さないという思いがどこか薄れていってしまわないだろうか。ASKA容疑者は逮捕時、明らかに幻覚症状の中にいた。盗聴、盗撮されている、そんな被害妄想から罪もない人が襲われた事件をこれまで何度も見てきた。
だから私は、ASKA容疑者の前回の事件のときを含めて、覚醒剤事犯で初犯だったら執行猶予という司法の通例を改めるべきではないか、と主張してきた。今回のことでそれ見たことかなんて言う気はない。ただ厳罰だけが更生の道ではないというなら、せめてASKA容疑者の前回の判決は保護観察つきの執行猶予にしておくべきだったのだ。
保護観察官や保護司が生活指導をし、定期的に面会する。それだけで、ひとり薬物と戦うより随分心強いはずだ。社会が司法に向かってそういう声をあげていく。厳しいようだが、そのことが本人の更生にもつながっていくはずだ。
元プロ野球選手や俳優、そして女優が南の島で大麻所持。薬物に明けて暮れる2016年。いま一度、社会が「人間やめますか」と声を出す時ではないか。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2016年12月7日掲載)
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