助かって欲しいと願った19人の命
− 相模原・知的障害者19人殺害事件 −
12月が近づくと、日々ニュースを送る私たちの口の端に今年の事件や災害の話題が乗り始める。やはりみんなの心に刃が突き刺さっているのは7月、相模原市の知的障害者施設で19人が殺された事件だ。犯人の26歳の男は「障がい者なんかいない方がいい」と供述。あのときの髪が総毛立つ思いは、いまも消えていない。
そんななか、出版社から神戸金史さんの著書『障害を持つ息子へ』が送られてきた。神戸さんの長男18歳の金佑くんは脳に障害のある自閉症児だ。お父さんの神戸さんは九州のテレビ局、RKB毎日放送の東京報道部長。3年前、私はあるドキュメンタリー番組の取材で神戸さんとご一緒した。
神戸さんは未明に相模原で事件が起きた日、キー局のTBSで特別報道番組のオンエアに立ち会った。そこに飛び込んできた犯人の「障がい者なんかいない方がいい」という供述。それはわが身とわが子に向けて射られた矢のようだった。
いつの間にか胸に浮かんできた詩。それを神戸さんが自らのフェイスブックに上げたところ思いがけない反響を呼んで、TBSの「ニュース23」や朝日新聞、それにネット上でどんどん拡散していった。全部は紹介できないが、金佑くんとの出会いに始まって、詩の最後はこう結ばれている。
<…息子よ。そのままで、いい。それで、うちの子。それが、うちの子。あなたが生まれてきてくれてよかった。私はそう思っている>
だが、まったく違った反応もあった。新聞で神戸さんの詩を読んだという読者から1通の手紙が届いた。
<私はあなたの開き直った様な考えが大嫌いです。何故「社会に貢献できない子供を助けてもらってばかりで申し訳ない」と一言謝らないのですか? 充分謝ってから言いたい事を述べて下さい>
こんな意見が寄せられるなか、神戸さんは、ある生番組でこう語りかけている。「あの容疑者に愛した人はいなかったのでしょうか。愛する人が不幸に遭った時に『なんとか助かってほしい。障害が残っても生きていてほしい』と思わないのでしょうか」
19人の命が一度に奪われた事件。多くの人が、障害があっても、障害が残っても、なんとか助かってほしいと願っていたことを、いまあらためて天国に伝えたい。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2016年11月22日掲載)
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