イヌワシ誕生と人間の謙虚さに拍手
− NHK「ダーウィンが来た!」に思う −
報道の公正性や受信料の徴収方法、それに会長人事。私も批判にまわることが多いNHKだが、「これを見るだけで受信料は価値あり」と思う番組がある。日曜日午後7時30分からの「ダーウィンが来た!」。なかでも6日放送の「イヌワシを守れ! 子育て支援大作戦」には胸躍らせた。
このコラムに「山荒れ 田荒れ 失われる命 ─イヌワシの大減少に思う─」を書いたのは去年の3月。国内最大の猛禽類のこの鳥は絶滅危惧種。ここ30年で生息数は500羽と激減している。私にとってイヌワシはとりわけ思い入れが深い。新聞記者時代、カメラマンとふたりで新緑のころ中国地方の深山に分け入り、真っ白なイヌワシの赤ちゃんの撮影に成功したことがあるのだ。
「ダーウィン─」が密着したのは群馬県北部、新潟県境に近い赤谷の森に生息するイヌワシ夫婦。どちらかが死ぬまではつがいというイヌワシ。だけど、ここ6年は子育てに失敗している。原因は人が植林したまま放置したスギ、ヒノキの森。いくら1キロ先まで見える視力があっても、木々に遮られてエサの野ウサギやヤマドリが捕まえられない。ヒナは栄養不足で死んでしまう。
そこで日本自然保護協会や地域の人たちで作った「赤谷プロジェクト」が取り組んだのは、これまでだれもやったことのない森の伐採計画。なんと2ヘクタールにわたって森を丸坊主にして獲物を捕りやすくしたのだ。
2月ごろ産卵するイヌワシ。新緑のころメンバーが岩肌の巣を確認すると白っぽい羽が見え、エサを運ぶ親鳥の姿がある。7年ぶりの赤ちゃん誕生だ。7月、おぼつかないながらも、親の横で飛翔の訓練をする幼鳥。息をのんで見ていたテレビ画面に向かって思わず拍手を送ってしまった。
もちろん人工林の伐採が子育て成功のすべての原因とは言えない。だけど大自然につけてしまった爪痕をなんとか取り除こうとする人間の謙虚さと、それを受け入れてくれた森とイヌワシに声援を送りたい。
─で、その後、誕生したヒナ鳥はどうなったかって。「うーん、ヘビぐらいは捕まえられるようになって、雪が降り始めたいまごろは、独り立ちの時期じゃな」。
日曜の夜、どこからか、ヒゲ爺の声が聞こえてくるようだった。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2016年11月15日掲載)
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