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病室 フラッシュアップ


解決に時間かかる薬物無差別殺人
− 横浜大口病院の点滴連続死 −

 この事件の解決には時間がかかる。捜査は慎重の上にも慎重に─。横浜市の大口病院で88歳の入院患者2人が異物の入った点滴を投与されて殺害された事件は、発生から20日。「目の前に犯人がいるような事件に時間がかかるのは、なぜか」と、コメントを求められるたびに私はこう答えている。
日刊スポーツの実際の記事画像
 簡単にその理由を書くと、1つには、薬物毒物事件はどれも難しい。まず犯人は殺害時、現場にいない。薬物を混入させておいて自分は離れた場所にいて、だれかが点滴を投与したり、あるいは毒物の入った食品を被害者が自分で食べてくれるのを待てばいい。だから犯行時の目撃証言はないし、アリバイ崩しも難航する。

 戦後の重大毒物事件を見ても、それがよくわかる。帝銀事件、名張毒ぶどう酒事件、グリコ・森永事件、和歌山毒カレー事件、仙台北陵クリニック事件。どの事件も冤罪の疑いが濃厚で再審請求が繰り返されたり、未解決に終わっている。

 もう1点、毒物事件の特性は犯人に罪悪感が乏しく、犯行を悔い、贖罪意識に基づいた自供を得にくいことがある。何しろ凄惨極まりない殺害現場、のたうちまわる被害者を見ていない。だから、この手で殺害したわけではないと、どこまでも他人事なのだ。

 さらに、もう1点。今度の事件には空恐ろしくなる奥深い闇がある。これまで明らかになっている2人の事件以前から、犯人は病院という場所を利用して無差別完全犯罪を敢行していたのではないかということだ。

 司法警察が規定する「変死」とは〈医師の診療下ではない状態で亡くなった遺体〉を指す。だから最近ふえている在宅看護の人が自宅で亡くなった場合も、警察の検視を受けないと火葬許可が出ない。それが1つのネックになっているのだ。

 だが、病院で入院患者が死亡した場合は、まぎれもなく〈医師の診療下〉。医師はその場で死亡診断書を作成。遺体は解剖どころか検視もなく、その日に火葬することも可能だ。犯人はそうした病院という場の特性をじつに狡猾に悪用して無差別殺人、しかも完全犯罪を実行したのではないか。

 こう書いてくるだけでも背筋がぞわぞわしてくる、空恐ろしい犯罪ではないか。だからこそ慎重に、だが、やっぱり一刻も早く解決すべき事件なのである。

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2016年10月11日掲載)



大口病院 殺人(Google ニュース検索)
 https://www.google.co.jp/search?&q=大口病院 殺人&newwindow=1&tbm=nws
Category:毒物を使用した事件(Wikipedia)
 https://ja.wikipedia.org/wiki/Category:毒物を使用した事件
未解決事件(Wikipedia)
 https://ja.wikipedia.org/wiki/未解決事件


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