周りがもう少し優しくできなかったのか
− 乗客から詰め寄られ車掌飛び降り重傷 −
大阪・朝日放送の夕方ニュース、「キャスト」でこの件を報道しながら、「本人は非難されて当然だけど、まわりがもう少しやさしくできなかったのか」と、コメントした。
先週水曜日昼ごろ、東大阪市の近鉄東花園駅で、近くの駅で起きた飛び込み自殺のため運転を見合わせていた特急の26歳の車掌が突然、「こんなの嫌だ」などと叫んでホームから線路に降り、制服や帽子を脱ぎ捨てて、さらに高架上から7.6メートル下の路上に飛び降りた。重傷を負ったが、幸い命に別条はない。
当時、ホームは特急の乗客や後続の電車の客であふれ、車掌は「早く動かせ」とか、なかには「タクシーを用意しろ」などと詰め寄る客に囲まれているうち、いきなり叫び声を上げて線路に降りたという。
事件を受けて近鉄本社は「車掌が不適切な行動を起こしたことは遺憾で、心よりおわびする」とコメントした。もちろん、それは鉄道事業者として当たり前の対応だし、車掌は責められて当然だ。だけど、そこに社員を思いやる気はまったく見えてこない。
少し前、JR西日本の現場の方の本音を聞きながら軽く飲む機会があった。ここ数年、どの鉄道会社も事故があると、安全確保のため広範囲で電車を止める。それが夜間だと事態は深刻だ。翌朝からのダイヤのこともあって、最終電車が軒並み終点の3つ4つ手前の駅で運転打ち切りとなる。さあ、気の毒なのは乗客はもちろん、打ち切りとなった電車の乗務員と、そこの駅員だ。
深夜いくつも駅の間を歩かされる客の怒りはすさまじく、暴言くらいはまだまし。事故でこうした打ち切りとなる駅はだいたい決まっているので、その駅では1、2年で退職を希望する駅員が続出するという。
もちろんお客さんの怒りはわかる。だからといって、ひたすらおわびしろ、と教育されている鉄道マンをはじめ、サービス業の人々に理不尽な要求を突きつけ、土下座までさせかねない。その姿は見ていて決して気持ちのいいものではない。
9月の終わり。間もなく試用期間が終わり、正式社員にという春入社の社員もいるはずだ。少々のことでくじけるな、とエールを送る一方で、秋の日だまりのように、少しみんながやさしくなれたらと願っている。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2016年9月27日掲載)
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