バリアフリー ハートで補う ハード面
− 車いすで飛び回る27歳社長 −
お墓までまっすぐに―なんて言ったら、いくら敬老の日やお彼岸が近いからといってお年寄りから怒鳴りつけられそうだが、目からウロコのユニークな青年にお目にかかった。
「ミライロ」社長の垣内俊哉さん。なんと27歳。自身、「骨形成不全症」という難病で、子どものころから車いす生活。その車いすに乗って東京、大阪、福岡と、飛び回っている。35人の社員の3割もまた視覚、聴覚、性同一性、なんらかの障害がある。会社のモットーは「バリアバリュー」。バリア(障害)を、バリュー(価値)に変えて行こう、だ。
大型のレジャー施設やホテル、結婚式場、大学などのバリアフリーに、障害者に対する接遇マナー講座。そのひとつに霊園が含まれている。なるほどレジャー施設などよりお墓には、はるかにお年寄りが多いはず。
「でもね、たいていの霊園はお墓に行くまでに車いすでは上れない階段があったり、それにお線香立ての高さなど、高齢者にとっては意地悪なことばかり。それがまっすぐにお墓に行けたら、どれほど助かるか」
垣内さんによると、足腰がきかなくなる、目が見えにくくなる、耳が遠くなる。いつかみんなが障害者になることが高齢化なのだ。だからバリアフリーは、じつは社会全体のバリュー、価値になってくるのだという。
その垣内さんは、2020年東京オリンピック・パラリンピック組織委員会のアドバイザーでもある。1964年東京五輪のとき、65歳以上のお年寄りが占める高齢化率は6%だったものが、2020年には5倍の30%。そんな事態に、日本の対応は決して遅れているわけではない。駅のエレベーターや盲人用信号。そうした環境整備は北欧諸国を除けば世界トップクラスだという。そうは言っても、視覚障害者の事故防止のための駅のホームドアは設置率7%。車いすでも入れる飲食店は、全体の5%。だけど垣内さんはニコニコしながら、こう話す。
「そういうハード面を補って余りあるのが、ちょっと声をかけよう、ちょっと手を貸そうという人々の意識。ハートなんです」
そう、ハードからハートへ。ここでもまた目からウロコだ。明日から始まるリオパラリンピックを、このたびはちょっと変わったハートで見ようと思うのでした。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2016年9月6日掲載)
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