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地下鉄 フラッシュアップ


ヒューマンリレーこそ光
− 視覚障害者線路転落事故 −

 先週月曜日の夕方、一瞬ヒヤリとした。このコラムに何回か登場した自称“百戦錬磨の障害者”、全盲のHさんと赤坂のホテルで軽く飲む約束をしていた。その直前、テレビニュースが東京メトロ青山一丁目駅ホームから盲導犬を連れた男性が線路に転落、電車にひかれて重体と伝えたのだ。
日刊スポーツの実際の記事画像
 赤坂と青山は目と鼻の先。ハッとしたものの、Hさんはこれまで盲導犬を連れたことはない。思い直してバーに向かうと、Hさんはすでにジンをロックで口に運んでいた。ホッとしつつ、いつもの軽口をたたき合う酒。だけどこの夜は、いささか重くなった。その後亡くなられた事故の男性がなぜ、盲導犬を線路側に歩かせていたのかなど解明すべきことはあるが、そうしたこと以上に、その夜、Hさんには危惧していることがあった。

 「きっとあしたの新聞あたりから、鉄道各社の転落防止用のホームドアの設置率は7%だとか、柵のない駅は視覚障害者にとって欄干のない橋といった論調があふれるんでしょうね」

 もちろんHさんも、そうしたハード面の整備は心待ちにしている。その一方、ソフトの面では4月から障害者差別解消法が施行され、障害者雇用促進法は何度も改正されて企業の障害者2%雇用や職場のバリアフリーは定着しつつある。

 「でもね、それで障害者が仕事につけるかというと、とんでもないんです」

 企業が障害者を雇ったからといって、通勤帰宅まで責任をもってくれるわけではない。都心の職場に通い、夜は私と相当飲んでも白杖(はくじょう)と経験を頼りに吉祥寺の自宅まで帰るHさんでも、パニックになったのは1度や2度ではない。「特に困るのは駅などの改修工事や横断歩道の変更。工事関係者は何カ月も前から周知させたというけど、たいていは看板だけ。ぼくらはどうやって注意しろというんですか」。

 Hさんたちが何よりも望むのは、ヒューマンリレーだ。東日本大震災の夜、車内で2人きりになった都バスの運転手さんとは、あれ以来友だちだ。渋谷駅には、いつもの親切な女子高生がいるはずだ。そんないくつもの目が華麗なバトンタッチをしてくれることこそ、Hさんたちの光だという。

 日本メダルダッシュのリオ五輪が終わり、9月7日、パラリンピックが始まる。

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2016年8月23日掲載)



「視覚障害者をホーム転落事故から守るには」(時論公論) | NHK 解説委員室 | 解説アーカイブス
 http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/251148.html
ATARIMAEプロジェクト - 障害者雇用支援総合ポータルサイト
 http://www.atarimae.jp/
リオパラリンピック特設サイト(日本障がい者スポーツ協会)
 http://www.jsad.or.jp/paralympic/rio/


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