角栄ブームは格差広げる現政権の反動
− 元首相逮捕ロッキード事件から40年 −
この夏はロッキード事件から40年。日本の憲政史上初めての元首相の逮捕。いま、あらためて事件を検証しようという動きもある一方で“角栄ブーム”だ。角さんの独白調で書かれた石原慎太郎氏の「天才」はベストセラーになり、コンビニに並んだ「田中角栄100の言葉」が若者に人気だ。
いま、なぜ角栄ブームなのか? 東海テレビのニュースでも、このテーマ追って塚本三郎、田原総一朗、平野貞夫の3氏をインタビューした。どうしてこの3人なのか。1つには、みなさん直接、角さんに会っている。もう1点。塚本さん89、田原さん82、平野さん80。失礼ながら、いま、お会いしておかないと、というお年なのだ。塚本さんは旧民社党書記長として角さんを目の当たりにし、「田中角栄に聞け」(PHP研究所)の著書がある。田原さんはロッキード以後、初めて角さんを単独インタビュー。元参院議員でロッキード当時、前尾繁三郎衆院議長秘書として事件を間近に見てきた平野さんは先月、「田中角栄を葬ったのは誰だ」(講談社)を出版した。
驚いたことに、どなたも口をついて出てくるのは角さんの政治とカネではない。政治への熱気だ。塚本さんは「角さんのカネは、自分のためではない。他人のためのカネだった」。
とはいえ、なぜいまロッキードの被告がブームなのか。田原さんと平野さんの答えはくしくも「いまの政治にないものがあったから」。
田原さんは、格差是正と自由闊達な議論を挙げる。日本列島改造論で、角さんはこの国の中にあるさまざまな格差の是正を訴えた。そのうえで党内でも対メディアでも「田中角栄と木魚は打たれてなんぼ」。何よりも自由な議論を大事にした。
平野さんは官僚依存と対米従属からの脱皮を挙げる。官僚と官僚上がりの政治家の思うがまま。アメリカの言うがまま。そんな国からの脱皮を目指したばかりに、角さんは葬り去られたのだという。
ハハーン、そういうことなのだ。格差は広げる一方。異常なまでのメディアや党内への締めつけ。原発もTPPも官僚の筋書き通り。沖縄の基地も安保法制もアメリカの言うがまま─。そんな現政権だからこそ、その反動で角栄ブームなのだ。
「どうしてそこでワシなのか」。真夏の夜の夢、ダミ声の感想を聞いてみたい。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2016年8月16日掲載)
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