国民みんなで良き知恵を
− 陛下「生前退位」の意向 −
いい意味でみんながダブルスタンダードを取りながら、よりよい着地を考えている。「天皇陛下、『生前退位』の意向」のニュースにその思いを深くしている。
第一報となった13日のNHK「ニュース7」。放送開始直前の午後6時58分、「陛下生前退位の意向」の速報が流れ、ニュースが始まるや画面には“内外にお気持ち表明検討”のサイドスーパーが出た。テレビのニュース番組に関わっている身からすると、本来、この展開はあり得ない。速報が流れる場合、たいていアナウンサーは原稿をひったくるようにして、わかっている範囲を読み上げる。2分後の定時ニュースにしっかりVTRも作り込んである“速報”なんて見たこともない。要するに用意万端整えたうえでのことだったのだ。もし、これが誤報や虚報だったら、NHKは会長辞任程度ではすまない。
一方で官邸や宮内庁はどうか。この流れを把握していなかったとしたら、危機管理能力を問われて内閣はもたない。すべてを承知していたのだ。ところが官邸も宮内庁も「退位は聞いていない。一切そうした事実はない」。ならばこうした場合、通常、官邸も宮内庁も即刻、NHKにニュースの取り消しを申し入れ、同時に他のメディアには、絶対に後追い記事を流さないように要請する。なのに、このたびはそうした動きがまったくないまま、翌14日の朝刊には参院選の結果より大きな見出しで「一切ない事実」が報じられたのだ。
なぜ、こういうことになっているのか。そこには、天皇のお気持ちともう1点、国政上法律上の問題という2つの要素が横たわっている。陛下は、ご退位の時期への思いを胸に、狭い船舶にご夫妻で宿泊しながらパラオ、そしてフィリピンと、かつての激戦地を歴訪された。
そのうえで側近に語られたご退位への揺るぎない思い。だが、そのことによって起きてくる国政や法律上の問題。それについては憲法上、天皇は関与なされない。そこでまずは天皇のお気持ちを国民に広く知ってもらい、では、国民は何ができるのか。いまみんなが、そのダブルスタンダードの中にいるように思うのだ。
ニュースが流れた翌日、葉山からお帰りになる際の陛下の笑顔は「みなで良き知恵を」と、語りかけておられるようにも思えるのだった。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2016年7月19日掲載)
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