あのイギリスの混乱…明日はわが身に
− 参院選を終えて −
参院選が終わった。結果、争点隠しといわれながら実質は争点そのものだった改憲については、ついに改憲4党で3分の2議席を確保、反対派は目の前に危機が迫ってきた。だけど、私は今度の選挙結果に、じつは改憲論議以上の危機を感じている。
危惧された投票率は、今回は54.70%。今回は速報値で51%を切り、過去3番目に低かった前回2013年の52.61%をやや上回ったとはいえ、有権者の半分近くが棄権したのだ。これは憲法うんぬん以前の民主主義の危機ではないのか。しかも盛り上がりを欠く原因が有権者の意識というより政権の側にあることに、より危機感を抱いてしまうのだ。
だってそうではないか。テレビで舌戦を繰り広げる党首討論は投票日前の2週間、まったくなし。3年前の参院選は公示後4回。2012年の総選挙では、投票日の3日前までテレビ5局が連日のように白熱した議論を放送した。なのに今回、有権者が見せられたのは商店街の練り歩きに、地元でのお食事。舌戦も議論とはほど遠く、一方が「気をつけよう甘い言葉と○○党」とやれば、片方は「汚い取り口は○○横綱並」とやって大横綱に謝罪する事態に。こんな子どもの口喧嘩を聞かされて有権者が必ず投票へと思うはずがない。
安倍首相は野党からの党首討論申し入れを拒否した理由を「期日前投票に行く人も多い」としているが、これも子どもの言い訳だ。なるほど期日前投票は当日、仕事のある人などには便利な制度。投票率アップにもつながり、今回はスーパーなどに過去最多の5299カ所もの投票所を設けたこともあって、中間統計で前回の1.24倍もの人が投票をすませている。
だけど、このことは裏を返せば、選挙期間中、白熱した党首討論を聞けるわけでもなし、萎縮だか自粛のメディアの選挙報道はほとんどなし。ならば、あれこれ考えるのもバカバカしい。都合のいい時にさっさと投票をすませておこうということの証しではないか。
でもなあ。有権者の半分しか投票に行かない。投票に行くにしても、熟考を重ねるための情報さえ示されない。こんなことで憲法や国の行く先が決まっていいのか。
民主主義の大先輩なのに、いま思いもよらない結果に真っ青になってうろたえている、あのイギリスが、明日はわが身に思えてならないのだ。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2016年7月12日掲載)
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