これほどゆがんだ「世界一の高齢者国」なんて
− 懐かしい碑文谷公園で悲劇 −
夕方のニュース番組。こんなことでなつかしい公園と池を耳にするとは思わなかった。目黒区の碑文谷公園弁天池。もう半世紀以上も前の目黒十中時代、少し耳の不自由な級友がいて、よく仲間と出かけた。当時からボート遊びができて静かな池の上では、大声を出さなくても彼と話ができた。
その池で切断された遺体の一部が見つかり、現場から600メートルほど離れた世田谷区内のマンションに住む88歳の女性であることがわかった。ひとり暮らしで時折、息子さんの家族が遊びにくることを楽しみに、静かな生活を送っていた。そんなお年寄りになんでこんなむごいことを、と心の底から怒りがわいてくる。
名古屋の番組では、西区の住宅街で民家が放火され、ひとり暮らしの84歳の女性が首を絞められて殺害されていた事件を報道した。家にあったはずの現金百数十万円がなくなっており、3週間前にも空き巣の被害にあっていたことから物取りの犯行とみられるが、なぜ84歳を殺害して、家に火までつけるのか。
先日、政府が発表したところによると、わが国の65歳以上のお年寄りの比率は全人口の26.7%。ついに4人に1人以上が高齢者という社会に入った。もちろん世界一だ。このうち夫婦2人の世帯に次いで多いのがひとり暮らし。特に女性は高齡になるにつれて夫に先立たれて、ひとりで暮らしている率が増え、80代では夫婦2人暮らしを上回っているという。
そんな力の弱い、ひとり暮らしのお年寄りが次々に毒牙に襲われて犠牲になっていく。言い換えれば、人生の幾多の波を乗り越えて、夫も見送り、最期のほんの数年はゆったり、ゆっくりとした時の流れに身をまかせる。そんな女性たちが思いもよらない、目を覆うばかりのむごい姿で人生の幕を閉じる。これほどゆがんだ社会があるか。
それにしても、なつかしい碑文谷公園で起きたバラバラ殺人。こちらの方は、解決するとしたら、みんなが、えっ、なんであの人が? いったいどんな動機で? と息をのむような、こちらも極めて力の弱い人物が、あの日の夜に自室で切断した遺体を池まで運んではまた戻って、残る部位をまた運んで…。そんな犯人像が、いくら振り払っても目の前に浮かんでくるのだが。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2016年7月5日掲載)
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