安全軽視の会社への組織罰を考える
− 軽井沢バス事故 東広島トラック事故 −
出会いと別れの春。24日には法政、早稲田の両大学でも卒業式があり、1月の軽井沢スキーバス事故で亡くなった法政4人、早稲田3人の学生をクラスメートやゼミ教授たちが、「ともに喜びあえるはずだったのに」としのんだという。
そんな事故の記憶も生々しい3月17日には、東広島市の山陽自動車道八本松トンネルでトラックの追突事故から車両火災が発生、2人が死亡、67人が負傷した。
軽井沢の事故では大型バスに不慣れな運転手が100キロ近いスピードでカーブを曲がりきれず、車を横転させている。山陽道の事故は、トラックの運転手が「日が差してきて寝てしまった」と居眠り運転を認めている。
だけど、運転手ばかりを責められるものなのか。軽井沢の事故では、バスの運行会社は中型の送迎バスしか経験のない運転手に1度試乗させただけで、大型バスで客を運ばせている。山陽道のトラックの運転手はフェイスブックに「休みがねえ。休みがほしい」と書き込み、2週間で家に帰っていたのは2日だけだった。
なのに、これらの会社は自らが運転して大勢の人の命を奪ったわけではないので、それらの事故について罪に問われることはない。会社や事業所といった組織を刑務所に入れるなんて、できっこないからだ。
だからといって、このままでいいのか。じつは2005年、死者108人という大惨事となったJR福知山線の事故のあと、一部のご遺族とJR西労の労組員が一緒になって「組織罰を考える勉強会」を立ち上げ、私も何度かお招きを受けた。 「安全第一」と言いながら、その実、「利益第一」の会社は、必ず従業員に過酷な労働を強い、一方で目に見えない安全対策費はこっそり削ってくる。だから、バスや鉄道、航空機、船舶などの公共交通機関や食品会社など大勢の人の命に関わる会社、そうした組織の幹部は取締役など、その任に就いたときから、起きた事故の処罰の対象になる─。
勉強会ではそんな組織罰制定の声が渦巻いているが、失速寸前のアベノミクス。景気浮揚に躍起の政権に、その声が届く気配はない。
花咲く前に散ってしまったわが子の卒業証書を受け取った親御さんの気持ちはいかばかりか。私たちの社会は、せめて事故から学ぶことはできないのか。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2016年3月29日掲載)
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