恫喝する政権にすり寄る一部メディア
− 被災地で渦巻く不信感 −
先週、東日本大震災の取材先から、東京・日比谷の日本記者クラブに飛んで行った。テレビでキャスターなどをしている田原総一朗さんや岸井成格さんたちと一緒に、高市総務相のテレビ局の番組内容によっては政府が局の電波を停める、いわゆる停波発言に抗議。「私たちは怒っている」と題する緊急声明を出した。
その席で私は、事態は思っている以上に深刻だ。特に震災被災地では、現政権に対するものと同じくらい、メディア不信が渦巻いていると話させてもらった。
あの大災害からこの11日で5年。高台移転が進んでいる。海岸沿いにはショッピングモールができた。そんな明るく、前向きな話題を取材させてもらうと、被災地の方は喜んでくれる一方で、ちょっぴり複雑な顏をのぞかせる。
「復興は猛スピードで進んでいる、被災地は元気を取り戻した、なんて政府や官僚を喜ばせるだけの番組なら取材には協力したくない」
特に、原発事故の影響で復興は被災3県の中で周回遅れといわれる福島のメディアへの風当たりは強い。とりわけ、会長が就任会見で「政府が右というものを、左というわけにはいかない」と言ってのけたNHKへの不信感はすさまじい。
県中央部に位置する町で、避難指示となっていた地域の放射線濃度が下がって避難解除準備の段階に入った。喜んだ地区の人たちは高地で雪深い土地柄を利用して、子どもたちを招いたイベントを企画。その話を聞いたNHKのディレクターが町役場を通じて取材を申し込んだ。だが、主催者の答えは「ご遠慮願いたい」。
放射能の線量が下がらず、苦悩していたときでもNHKは「除染は98%まで進んだ」。お年寄り数人が一時宿泊しただけなのに「順調にふるさと帰還が始まった」。
いったいどこまで政権の顔色をうかがったゴマ擦り番組を作ったら気がすむのか。はじける子どもたちの笑顔を、そんなことに利用されたくない、という。
局全体の姿勢ではなく、1番組の内容次第で停波もあるとする政治権力の脅し、どう喝。だけどそれをはね返すどころか、すり寄って受け入れる一部のメディア。そこに生じるメディアと視聴者の亀裂。それこそが権力の思うつぼではないか。
いま、心底、「私たちは怒っている」。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2016年3月8日掲載)
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