怒りで震えた丸川発言の罪深さ
− 年間被ばく線量に「科学的根拠ない」 −
きょうから3月、そして11日には、あの東日本大震災から5年を迎える。私も週末ごとに福島、宮城と被災地を取材する日々が続く。その3・11を前に、福島の声を背にしてどうしても書いておきたいことがある。
丸川珠代環境大臣、その日までにお辞めなさい─。丸川さんは先月7日、長野県松本市で講演。その後、発言の一部を取り消して謝罪した。講演での発言というのは、原発事故の除染長期目標の年間被ばく線量1ミリシーベルトについて「反放射能派というような人がわーわー騒いだ中で何の科学的根拠もなく(決められ)、結果、帰れるはずの所に帰れない」というものだった。
福島で出会った方たちの目は怒りというより、哀しみに満ちていた。環境省が定めた年間1ミリシーベルト、1時間当たりの目標値0.23マイクロシーベルトに向けて、「おっ、きょうはここまで下がったぞ」と懸命に努力してきた福島の方々。その方たちは「反放射能派」の「わーわー騒いだ」人で、あの目標値に「科学的根拠はなかった」。
だったら福島のこの5年はなんだったのか。福島県民ではないが、震災以来、取材してきた私も怒りで震えがくる。
丸川さんがテレビ朝日のアナウンサー時代、短い間だったが、番組をご一緒させてもらった。聡明な方で、まず相手の話をじっくり聞いて、それから自分の考えを言葉を大事にしながら話す。そんなふうに感じていた。月刊誌で両親との確執を赤裸々に書かれたこともあった。自分の傷口は見せようとも、他者は決して傷つけたくない。そんな彼女が一体どうしたのか。政治の世界が人を変えてしまったのか。政治のために自らが変わったのか。
ただ、福島の方の本当の怒りは丸川さんより、そんな本音を吹き込んで彼女の口から言わせた、いまの政権にある。とはいえ、丸川さんはやはり罪深い。有権者にうちわを配ったり、観劇の招待をした女性大臣は、たしかに悪いことだったが、人を傷つけたわけではない。だが結果、辞めているではないか。
被災地に心を寄せ続けられる天皇皇后もご臨席になる追悼の式。その場に、これほどまで福島の人を傷つけてしまった丸川さんがいていいものか。散りぬべきときを、じっくりと考えられることを願っている。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2016年3月1日掲載)
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