ダメ議員のために制度後退させるな
− 宮崎謙介議員と育児休業 −
K君は警視庁のいくつかの課を担当、いまは社会部の遊軍。司法にも詳しい根っからの事件記者だ。殺人などの大きな事件の捜査の見通し、検察の動き、裁判の行方。K君とそんなことをおしゃべりするのは楽しいし、互いに刺激になる。そのK君が去年秋、「半年ほど休暇を取ることにしました」と言ってきた。
2番目のお子さんを授かり、奥さんの出産に合わせて育児休業を会社に申請したという。「それはおめでとう」と言いながら、K君は脂の乗りきった働き盛り。その社の戦力としても不可欠だ。「どうしても、って奥さんが言っているの?」という言葉が、つい口をついて出てしまった。黙って席を立っていったK君。
数日後、同僚の女性記者がこんなことを教えてくれた。K君の上のお子さんには軽い障害があり、2人目の妊娠がわかった奥様は精神的に不安定な状態が続いている。夫婦で長い時間をかけて話しあい、結果、お互いが協力して子育てすることにしたのだという。
私は胸をドンと突かれた思いだった。なんと心ないことを口にしてしまったのか。心底、後悔しているとK君に伝えてほしいと、その女性記者にお願いするしかなかった。
今週、こんな恥じ入るばかりの経験を書いたことに説明はいらないはずだ。国会議員の育児休業を訴えていた自民党の宮崎謙介衆院議員(35)の、みっともなくて口にもしたくない不倫騒ぎ。空々しい言葉をダラダラと繰り出したあげくの議員辞職。辞職は当然として、こんな男に議員をさせていた党の見識を疑う。
何よりK君のように仕事と子育ての両立に悩み抜いた結果、父親の育休をとっている人たちをどれほど傷つけたことか。これから育休を取ろうと考えている男性を、どれほど戸惑わせていることか。たとえ冗談にせよ、申請したパパたちが「キミは大丈夫だろうな」なんてくぎを刺されたのではたまらない。
大事なことは、こんないいかげんな議員ひとりのせいで、せっかくK君の会社でも充実しているこの制度を後退させないこと。そして、まだまだというところには、どう浸透させていくかだ。
5月の連休明けに社会部に帰ってくるK君。たまには事件をはなれて、この制度の今後も話してみたい。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2016年2月16日掲載)
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