「危うさ」そっちのけ「お得感」で原発再稼働
− 本当の電力自由化とは −
先週のこのコラムに、デフレ脱却なんて大うそ。激安競争で消費者のまわりには危ない冷凍ビーフカツに、危ないスキーバスと書いたばかり。なのに、このコラムも間もなく原発からの電力入りのパソコンで原稿を送ることになる。
みんなの不安げな顏をよそに関西電力は先週、福井県高浜原発3号機を再稼働させ、今月中に関電としては大飯原発が止まって以来、2年4カ月ぶりとなる原発による電力供給を再開。大阪のわが家にも高浜原発からの電気が流れ込むことになる。
それにともなって関電は、東日本大震災以来、段階的に上げてきた電気料金を「早い時期に値下げしたい」としている。
これに追い風となるのが、4月からの電力自由化。ガス会社や携帯電話会社も電力小売りに参入。加えて供給する側も関電が中部電力、中電が東電管内へと進出できることになり、私が出演しているテレビも「賢い組み合わせで安い電力を」と、お得なプランを紹介する。
でもなあ、ここでもまた危うさ、危なさは、そっちのけ。安値競争に、お得感。だけど、こうして原稿を書きながら心に浮かんでくるのは飯舘、川俣、浪江といった福島の村や町だ。
雪で真っ白な田畑に積まれた除染ゴミの黒い土のう。息子は働き口を求めて東京へ。嫁と孫は避難して福島市に。老夫婦は仮設住宅。ひとつ屋根の下で暮らした家族は、いつ元に戻れるのか。寂しそうに肩を落としていた地区の区長さんの姿を思い出す。それでも私たちの国は、どうしても原発を再稼働させるというのか。
安値でなくていい。お得感なんてなくてもいい。ヨーロッパの一部の電力会社のように「自然エネルギー○%、化石燃料○%、原発○%」といった電力の品質表示はできないものか。
それに電力会社の相互進出が可能になったのだから、「ご契約はこれまでの電力会社から、ぜひ原発ゼロのわが社に」といった電力会社が出てきたっていいではないか。少々の値下げより、自然エネルギーの電気を使いたい。原発ゼロの電力会社にしたいという消費者は少なくないはずだ。それが可能になることこそ、本当の電力自由化ではないのか。
私も大阪の自宅で〈このコラムに原発の電力は使用されていません〉なんて原稿を書いてみたいな。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2016年2月2日掲載)
|