危ない価格破壊…デフレ脱却ってどこの国!?
− 廃棄食品横流しに格安バス事故 −
名古屋のテレビ局でよくお世話になるCoCo壱番屋のカレーが気の毒な目にあっている。大きな事件や災害が起きて総動員態勢になると、みんなに人気のココイチカレーがズン胴鍋で運び込まれ、殺気立ったフロアに、ふわっとカレーのにおいが立ち込める。
その壱番屋が処分を依頼した産廃業者、「ダイコー」が冷凍ビーフカツを横流し。いくつもの業者を経て愛知県内のスーパーで売られていた。県が調査に入って大騒ぎになったが、私は名古屋の早朝の番組で、「こんな悪質なケースは調査でなく、事件として捜査すべき」とコメント。県警も電光石火、その日のうちにダイコーなどの家宅捜索に入った。
それはそうだろう。これまで食品に関した不正というと、いまはなつかしい“ささやき女将”の料亭が客の食べ残しを使い回したり、バナメイエビを芝エビ、中国産を国産と偽るなどの偽装がほとんど。もちろん悪いことだが、直接健康への影響はなかった。
だが今回は違う。廃棄すべきもの、言い換えるとゴミを消費者の口に入れて危ない目に遭わせてしまったのだ。偽装よりはるかにたちが悪い─。と、ここまで書いて、待てよ、偽装よりはるかに危ないことがほかにもあるぞと思い始めた。
この事件の背景には、1円でも安い物を求めて走りまわる消費者がいる。どこがデフレ脱却だ、インフレターゲットなんだ。冷凍カツは本来の価格の5分の1の値段で、県内では激安で人気のスーパーの棚に並んだ。おかずの多さがウリの400円の激安弁当にも紛れ込んで、まさかそんな危ないものとは思ってもいない客の口に入ってしまった。
その一方で、大型バスは4回目という運転手の乗る格安スキーバス。宿泊、リフト代込み1万3000円ツアーが、それほど危ないものだとはつゆほども思っていなかった将来ある若者13人の命を奪ってしまった。
アベノミクスの果実、デフレ脱却なんて、いったいどこの国の話なんだ。危ない価格破壊や激安競争が消費者に襲いかかっているではないか。
なのに、この国のリーダーは、そんな現実なんて知るもんか。戦後71年目の第一声はテンションを上げまくって、「憲法改正は現実的段階に移ってきた」。
本当に危ない国である。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2016年1月26日掲載)
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