真昼の暗黒にひと筋の光
− 鹿児島県警と地検のえん罪暴く −
青年に会ったのは去年の春だった。バーで薄い水割りを片手に30分ほど話して私は「キミは絶対に無実」と言い切った。「なぜ?」という問いには、傲慢にも「その判断が狂いだしら、この仕事をやめる」としか答えようがない。と同時に、私でもわかることをプロがわからないはずがない。鹿児島県警と鹿児島地検に怒りが爆発した。
3年前、17歳の少女を強姦したとして逮捕起訴された23歳のI君に先週、福岡高裁宮崎支部が1審の懲役4年を破棄、無罪を言い渡した。I君はまったくの冤罪で2年余りも塀の中に入れられていたのだ。
判決は、とんでもない捜査の実態を赤裸々に暴き出した。綿棒の精液を鑑定するとI君とは違うDNA型が検出されたが、判決によると「捜査官の意向を受けて鑑定不能とした可能性は否定できない」。つまりI君を犯人にデッチ上げるためにDNAは検出できなかったことにしたのだ。
だが地裁はだまされたけど、高裁は違う。弁護側の請求で精液を再鑑定すると当然、DNA型はI君とは別の男性のもの。ところが県警、地検はうそを認めるどころか、なんと証拠の綿棒を無断で持ち出した。地検は「再々鑑定のため」としているが、裁判所にも隠した鑑定など証拠になるわけがない。どこかで手に入れたI君のDNAを付着させようとしたとしか考えようがない。判決文は「信義に反し、裁判の公正を疑わしかねない」と、警察、検察に対する怒りをむき出しにしている。
鹿児島県警、地検といえば2003年、志布志市で無実の主婦らを選挙違反事件の被疑者にデッチ上げ、最長1年半も拘束、日本の司法に消せない汚点を残したところ。以来警察、検察改革が叫ばれながら、いまだこのざまなのだ─と、いつもなら、ここで怒りをあらわにコラムを終わるところだが、今回は違う。私の独断でお名前を書く。
I君の野平康博弁護団長、伊藤俊介主任弁護士。DNAの偽装を見破った押田茂實日大名誉教授。「ANNテレメンタリー」でいち早く事件を報じた寺田和弘ディレクターと、ちょっと手前みそだがテレビ朝日「スーパーJチャンネル」。そして何よりI君を信じて励まし続けたご家族。これらの人々が真昼の暗黒といわれて久しい日本の司法に、ひと筋の光を放ってくれた。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2016年1月19日掲載)
|