訪日旅行者悲しむ「民泊」の悲惨状況
− 京都のホテル不足深刻 −
暖かな日差しのもと、三が日をすごした京都の話の続き。東京、大阪もそうだが、この京都のホテル不足は輪をかけてひどい。毎年お世話になっている個人タクシーの運転手さんのところにも昨年秋ごろから、なじみのお客さんの「なんとか1室でも」という電話が相次いだ。だけど全国チェーンのビジネスホテルでも普段、シングル6000円から7000円のところが、なんと2万8000円。
「私が吹っ掛けているようにとられたらいややさかい、自分で交渉して、ということにしたんですわ」
もっとひどいのが最近話題の民泊。マンションや民家をホテル代わりにして、主に外国人観光客を泊めるシステムだが、防犯や騒音の問題が続出。厚労省などがルール作りに乗り出した。
だが、「近隣の人の迷惑ばかりが表に出ているようですが、私たちは、海外から来てくださったお客さんの悲しそうな顏に心を痛めているんです」という。
外国人がネットで調べてきた民泊の連絡先として携帯の番号しか書かれていない。運転手が電話をすると、最初は税務署や行政を警戒してか、決して名乗らない。「外国からのお客さんと一緒」というと、やっと詳しい地理案内をする。だけど着いてからがまた大変。何年も空き家だった民家を少し改装したものだったり、マンションの一室を何部屋にも区切ったものもある。
せっかく京都を訪ねてくれた海外のお客さんは、スマホに載っている仲介サイトの写真と見比べて、悲しそうに首を振って、宿泊はあきらめるという。
「京都でひどい目にあった。日本人はズルイ。そんな気持ちでこの人は国に帰るのか、と思うと、私たちもいたたまれないんです」
アベノミクスが掲げた成長戦略の矢。たいがいが頓挫するなか、2010年には900万人足らずだった外国人観光客を2020年までに2000万人にするという数字は昨年、早々と達成したとみられ、政府は新たに3000万人の目標値を掲げることにした。だけど、こんな倍々ゲームにホテルも交通機関もついていけるわけがないではないか。
アベノミクスの矢は無理矢理の矢なのか。せっかくのお客さんが私たちの国をもう1度訪ねてみたいと思ってくれないとしたら、ずいぶん寂しいではないか。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2016年1月12日掲載)
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