取り調べ全面録画にひるむな大阪府警
− 寝屋川中1殺害事件 −
捜査1課の幹部にも、一線の刑事にも苦悩の色がにじんでいるという。大阪・寝屋川市の中学1年、平田奈津美さん(13)と星野凌斗君(12)が遺体で発見された事件で、大阪府警は原発関係契約社員、山田浩二容疑者(45)を凌斗君殺害容疑で逮捕した。猛暑の8月、お盆に起きた事件は、真冬の寒さの中で山田容疑者3度目の逮捕となった。
だけど凌斗君、奈津美さんに対する容疑はいずれも殺人だけ。死体遺棄はついていない。いつ殺害されたかわからない。だから遺棄された時は生体だったか、死体だったかわからないので、死体遺棄はつけられないという異様な展開なのだ。 3度目の逮捕状を見せられた山田容疑者は「黙秘」と叫んで、あとはこれまで通りの完全黙秘。奈津美さんも凌斗君も、いつ、どこで、どのようにして殺害されたのか、まったくわからない。
捜査本部は凌斗君の服に山田容疑者のものとみられる皮膚片がついていたこと、凌斗君に死に至るような病気がなかったことなどの状況証拠を積み重ねて、裁判員裁判の公判をなんとか乗り切りたいとしている。
もちろん、捜査が苦境に陥っていることはよくわかる。だけど、寝屋川の商店街の防犯カメラに映った、まだあどけなさの残る少年少女。あの朝、この子たちにいったい何が起きたのか。改悛の思いとともに、被疑者本人の口から語らせ、それをご遺族をはじめ被害者を大切に思ってくれていた方々にお伝えする。他の事件と違って殺人捜査には、そうした大事な役割がある、と私は思っている。
もう1点、この事件ではこれまでになかったことを調べ官は体験している。裁判員裁判事件の全面可視化が決まって、今回、この種の凶悪事件としては初めてともいえる全面録画録音が逮捕直後から行われている。が、そのことが自供を得られない理由にはならない。防犯カメラのおかげで犯人を逮捕し、可視化カメラのせいで調べが行き詰まるというのではあまりに情けない。
これまで誰もが「迷宮入りか」と思った数々の難事件を解決してみせてきた私の古巣、大阪府警捜査1課。ここは、いまこそ先達からの練達の技を駆使して、あの日、何が、この子たちの身に起きたのか。ご両親に、そして社会のみんなに、ぜひ伝えてほしい。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2015年12月9日掲載)
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