住民と親会社見ているのはどっち − 横浜傾斜マンション補償案 −
ニュースを伝えながら、「本当にそれでいいの?」と心配になってくることがある。降ってわいた災難に振り回される横浜市都筑区の傾斜マンション。発覚当初は「修理すればすむ」なんて横着を決め込んでいた販売元も、騒ぎが大きくなるにつれて態度を一変。先日の住民説明会では全戸建て替えを提案した。
そればかりではない。建て替え期間中の仮住まいの費用の全額負担は当然として、ほかに慰謝料の支払い。さらに転居希望者には、新築分譲時の価格で買い取るとしている。
だけど、この補償案、本当に住民の方を思ってのことなのか。事態が大きくなって連日の報道。出てくる企業は三井に旭化成に日立。当然、親会社やグループ企業から「いつまで恥をさらすんだ」という声が出てくる。「出来る限りのこと」とは、住民の顔を見てのことなのか、親会社の顔色をうかがってのことなのか。
そもそも傾いていない3棟を含めて4棟700戸、約2000人が一時転居となれば、地方の村が一時、消えるに等しい。しかも、その人たちが抱えている学校、職場、保育園、病院、介護施設…、状況はじつにさまざまだ。すんなり5分の4の賛成で全棟建て替えとなるのか。
過去最大の都市型災害といわれた阪神・淡路大震災を思い出す。既存不適合、容積率、区分所有法、減歩清算金。聞き慣れない言葉が飛び交って、マンションでは全面建て替えか、補修かで、被災当初、あれほど仲良しだった住民がいがみ合い、結果、裁判になった例は11件にのぼった。
一部の裁判は決着まで5年以上もかかり、「どんなに立派に建て替わっても、集会室や法定であんなに言い争った方たちと同じ屋根の下には住めません」と、こだわり続けたマンションを後にする方もいた。
自然災害にしてこれなのだから、まさに人災、都筑区のマンションにかかわった販売元、元請け、下請け。これらの企業はどれほど罪深いことをしたか。
だとすれば、なおさらだ。かのマンションのみなさんには、たしかに住まいはズタズタにされた。だけど、どんな補償案を示されようとも、みんなで築いてきた人と人のつながりまでこわさせてなるものか。そんな姿を、ぜひぜひ見せていただきたい。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2015年11月3日掲載)
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